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――風船の猫


 ある男が街の近くの川岸を散歩していた。いつもの日課で、川のせせらぎと澄んだ空気を楽しんでいた。今日は早めに家を出たので帰るには時間がある。もう少し遠出してみようと、川のさらに上流へ向かった。

 すると、川岸で娘が何かを洗っている。洗濯だろうか? 随分前時代的なことをする子もいたもんだと近寄ってみる。すると、すぐ違和感に気づいた。娘が洗っているのは、猫なのだ。猫を川で洗っているのだ。

 それもただの猫ではない。毛皮の絨毯のように平らで、タオルのようにひらひらした猫なのだ。それらの猫は娘の脇に何枚も積み重なっていて、次々と洗われていく。奇妙なことにその猫たちは生きているようだった。

「何をしているんですか?」
 男は娘に声をかけてみた。不思議なことはよくおこるが、この娘は悪い人ではなさそうだ。
「私は猫洗い屋です。猫を洗っているのです」
 と返す。

 猫洗い屋とは聞いたことがない。不思議な職業があるものだと、男は娘の作業を眺めていた。娘は猫を洗い終わったようだ。積み重なった猫をぽんぽんと叩く。すると、猫は元の厚みを取り戻したのだった。

 猫は確かにきれいに洗われてふわふわの毛並みになっていた。猫たちは自由を取り戻したように勝手に動き出し、四方に散って行った。
「わたしは修業中なのです。野良猫で練習しているのです」

 なるほど、修業中にしてはきれいに洗われているようだった。男も猫を飼っていたので、猫を洗ってくれるのかと聞いた。娘は笑顔で了承した。代金は以外にも小銭で払える程度だった。

 男は一度家に帰り、猫を捕まえて、川辺に向かって歩き出した。籠に入れられた男の猫は大人しくしている。ふと、男が何かを見つけて空を見た。それは空にふわふわ浮かんでいたのだった。

 よく見ると、それは風船のように膨らんだふわふわの猫だった。まるでたんぽぽの綿毛のようにふわふわでゆったり空に浮かんでいる。ははぁ、あの娘、修業中だと言っていたがこういうへまもするのだなと笑った。

 きれいになるのはうれしいが、風船のようになってしまっては面倒だ。修業が終わったころ頼もう。そう思って、娘には断りを入れておいた。娘は風船のようになっていると聞いてあわてて探しに行ってしまった。

 それからも日課の散歩は続けているが、猫洗い屋の娘には会えずじまいだった。ただたまに――風船のように膨らんだ猫を見ることがあった。

――風船猫を見たら、猫洗い屋が修業しているかもしれないね










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