――不思議な友達


 ミェルはその生き物を物置で見つけた。彼はまだ10代で暇さえあれば図鑑を見て過ごすような少年だったが、その生き物が何なのか分からなかった。それは白い毛がフサフサ生えた、蛇のような細長い身体の、目も歯も無い生き物だった。そいつは物置に入れた箒に巻きついていたのだ。

 好奇心から、恐る恐る捕まえてみた。手を触れてもその生き物は動じず、逆にミェルの腕に巻きついてくる。いとしいそのしぐさに、ミェルはこの生き物が好きになってしまった。名前も生態も知らない不思議な友達。早速虫籠を物置から取り出し中に入れる。

 その生き物はしばらく虫籠を這いまわって様子を確認しているようだったが、すぐ大人しくなって中央でとぐろを巻いた。ミェルはこの生き物を秘密に飼うことにした。親に見つかったら近くの森に捨てられるかもしれない。彼は生き物が食べそうなものを探しに行った。

 ミェルは近くの森からバッタを捕まえてきて虫籠に入れる。だが生き物は食べるどころか少し邪魔そうにしている。その後もソーセージや、ミルクや、卵や、草を与えてみるが、一向に食べる様子は無いのだ。その日は何の進展も無いまま一日が過ぎた。

 翌朝見てみると、その生き物はなんだかぐったりとしていた。何も食べていないせいだろうか、そもそもこの生き物は何なのか……ミェルは心配になった。自分の勝手な行いでこの生き物が不幸になっているのではないかと。このままでは死んでしまうのではないか……?

 そう思うとミェルはこの生き物がとてもかわいそうになった。何も理解してやることもできないまま悲しい別れをするのは嫌だった。彼はこの生き物を森に放してやることにした。その方がきっと幸せだろう。すこし寂しい気もするが、生きていればまた会えるかもしれない。

 早速虫籠を持って近くの森へと足を運んだ。森は涼しく、静かで、薄暗い。木漏れ日がきらきらと足元を点描している。ミェルは虫籠のふたを開ける。すると、その生き物はゆっくりと動き出し、出口から顔をのぞかせた。

 すると、そのフサフサの生き物はぱらりぱらりと散らばり、光の破片となって空に舞い上がったのだ。それはまるで木漏れ日が舞いあがってゆくように思えた。光の破片はぱたぱたと羽ばたき、いつのまにか蝶へと姿を変えていた。

 虫籠の中にはすでに何もおらず、毛の一本も残っていない。光輝く蝶はひらひらとミェルの周りを舞い、森の奥へと消えていった。

――二度と会うことは無かったが、ミェルはこの不思議な友達をいつまでも忘れることは無かった。










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