――プレゼント


 灰土地域の端の方で、ある遺跡が発見された。それはほとんど土でできていたが、奇妙なものが見つかったのだ。それは材質不明の箱だった。箱は大人の身長ほどもある正四面体で、黒っぽく表面に不思議な文様が彫られている。しかし、どこから開けるのかさえ分からなかった。

「学者さんを呼んだ方がいいのかなぁ」
 ミシルは箱を見つめて言った。農場開拓するはずだったが、とんだ掘り出し物だ。地主の娘である彼女はこの箱の処遇を任せられた。彼女の父は農場のこと以外頭にないのだ。村の農夫たちと箱を調べている最中である。

 とりあえず邪魔なので移動することにしたが、重すぎてその箱は動かなかった。村の力自慢が押しても引いても、家畜に引かせても、最新式の蒸気耕運機で引っ張っても無理だった。
「こまったなぁ……」

 すっかり日が暮れていた。冬の風が冷たくなってきた。ミシルは、明日にしようと皆に解散を告げその場を去った。灰土地域にはよくこういった過去の遺物が発掘される。どんな仕組みか、何の目的の物体かさえ分からないのが常だ。ミシルは話には聞いていたが、実際目にしたのは初めてだ。

 ミシルは丘の上にある屋敷の自分の部屋にいた。自分の部屋から例の遺跡が見えるはずだ。いまは夜なので何も見えなかったが。日記をつけ、部屋の明かりを落とし、ベットに入って目を閉じる。今日は色々なことがあって疲れた……彼女はすぐ夢に落ちた。

 夢の中でミシルはあの箱と会話していた。おかしいことだが、彼女は奇妙にもそれを受け入れていた。箱は甘い少年の声で、遥か昔の煌びやかな宮廷の様子を懐かしむように語った。ミシルはそれを聞いて美しい宮殿の風景を想像し胸をときめかせた。箱は最後にミシルにお願いをした。

「僕は大切なものを届けるためにずっと待っているんだ。でも、もう待つ必要はないんだ……大切な積荷を、君に届けていいかい? 呪いを解くのはいつだって同じ方法……君のキスが必要なんだ。それで僕の仕事は終わる……長い仕事が……」

 翌日、ミシルは奇妙なことにこの夢を詳細に覚えていた。窓の外には小さく例の箱が見える。彼女は急いで着替え、外へと飛び出した。あの箱は私を待っている……そう思って。箱の傍には消し炭になった焚火と、寝ずの番をしていた少年の農夫がいた。

「あ、お嬢様、おはようございます」
 御苦労、とミシルは少年をねぎらうと、箱の前に立ち恐る恐るキスをした。箱は土まみれだったが、不思議と温かい感じがした。

 突然、箱が開いた。小さなさいころのように箱は分解され、小さく泡のように消えていって、彼女の足元に小さな手のひら大の立方体が落ちた。ミシルは目を見開く。花吹雪が風に舞い、まるで春の景色のようだった。

 箱があった場所には、いまや七色の見知らぬ花が咲き乱れる大きな鉢植えがあった。  それは今まで元気に育っていたように瑞々しく、花の一つ一つにリボンで装飾が施され、さわやかな春の匂いをさせていたのだった。










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