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――雪呼びの笛


 観光客のフィルとレッドは列車に乗って山を登っていた。平地を走る列車から乗り換え、登坂用のケーブルカーに乗り換える。この山並みをいくつか越えればモスルート国にたどり着く。灰土地域の東北地方はすでに冬に差し掛かり、雪こそ降らないものの風は冷たく突き刺すようだ。

「フィルよう、この列車には暖房はないのか。寒くて死にそうだ」 
「田舎だからな。飛行船の資金が無かったから仕方が無い」 
 乗るときに渡されたサービスのゆたんぽが嬉しい。二人や他の乗客は皆分厚く着込み、マフラーと毛皮の帽子で頭を包んでいる。

「田舎だからって何でも都会を不便にしたものばっかりでは……」 
「それもまた旅さ。それに田舎ならではの凝ったものもあるのだろう」 
 フィルはこの寒さもどこ吹く風だ。いつも旅ではレッドが不平を言ったり喜んだりしてフィルが落ち着いて返すのが常だ。

 青いコートと緑のマフラーを着込むのはフィル、赤いコートと茶色のマフラーを身につけるのはレッドだ。二人とも土産屋で買ったおそろいの黒い毛皮の帽子をかぶっている。吐く息は白く、その湿気は窓に結露し霜を張らせていた。窓の外は殺風景な灰色の山並み。

「ザザーッ……乗客の皆様、今日は初雪が観測されるとの予報です……峠で下車した際は空を見上げてみてはどうでしょうか……ザザーッ」 
「おっ、雪か。この味気ない火山灰の灰色も少しは綺麗になるかな」 
 レッドは子供のように不平を言うのをやめて、やはり子供のように目を光らせた。

 峠に着くのは3分程度後のことだ。初雪がそこまで正確にわかるものであろうか? とフィルは不思議に思ったが、この世界はよくわからないことだらけなので考えても仕方ないと窓の外を眺めた。やがて長いブザーが鳴り、列車はゆっくりと車体をきしませ停車する。

 空は北半分が厚い雲に覆われ、奇妙に二分されていた。二人は列車を降り、受付でゆたんぽを返却する。峠はちょっとした建物がいくつか建っており、暖かい食べ物や飲み物、土産物で観光客を待ち構えていた。こういう割高な軽食でも買うのが旅の醍醐味であると二人は思っていた。

 さっそく目に付いたカエルの燻製炙りを買おうと屋台に近づいたときである。急に鐘が鳴り響いた。
「雪主さまー! 雪主さまの初雪ー!」 
 視線を後ろにやると、物見櫓で役員が鐘を叩き叫んでいる。人々はいっせいに空を見上げ、指差している。

 フィルとレッドはつられて空を見上げた。すると、先ほど見た二分された雲の一部が盛り上がっている! それはやがて長い笛をくわえた頭のようになった。櫓の役員も鐘を叩くのをやめその光景に見入っている。雲は形を作り、その笛からフォーンと澄んだ金管楽器のような音を奏でた。

 笛の音は長く、長く響いた。笛の先から白いもやのようなものが大量に噴出し、空を染めていく。
「雪……雪だ!」 
 レッドは叫んだ。周りの観光客も次々に雪だ雪だと騒ぎ始める。雪はだんだん地上に降りてゆき、灰色の地面に落ちてにじんでいった。

――田舎では雪を降らすのにもたいそう凝ったものが用意されているものである
(フィル・オークロッド旅行記「モスルート行きの峠にて」より)










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