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「TCG」
そんなに長くない不思議の世界の冒険譚




ログ

2011/2/16
現世とは違う幻想世界。ここではあるカードゲームが流行っていた
その名は「TCG(トレーディングクリーチャーゲーム)」
現世から生き物を幻想世界に召喚しゲームの駒にするというものだ
あるダンジョンの奥にそんなカード使いの一人である娘がいた
「現れよ…わたしの手駒。その名は《ただのオタク》!!」


2011/2/17
希一は自室のPCの前で奇妙な浮遊感を覚えた
声を上げる間もなく視界がブラックアウトし、彼は現世から消える
視界が回復したとき彼は一人の娘が目の前に立っていることに気づいた
彼女は幻想小説の挿絵のような着古した古めかしい衣服を身に纏っている
希一の服はというとくたびれたチェックの青いパジャマだった


2011/2/18
「わたしの名前はエレウェー。貴方、言う通りに動いてちょうだい」
すると希一の脳内に様々な知識が流れてくる。どうやらこの娘と意識を共有したらしい
「第一の命令。貴方はここに陣地を築きなさい」
希一は周りを見渡した。松明の灯るうす暗い石造りの小部屋だった。壊れた家具が散乱している
逆らえない以前に、奇妙なことに労働意欲が湧いてきてしまったので、彼は鼻歌交じりに作業を開始した


2011/2/19
希一はとりあえずバリケードを築くことにした。エレウェーは飛び道具を用意する当てがあるようだった
エレウェーはカードを数枚取り出すと次なる僕を召喚した
9人の冴えない男たち、彼らは皆日本人のようだったが、希一と同じように召喚され作業を命じられた
30分ほどで小部屋の4つの入口に簡単なバリケードが築かれた
エレウェーはまたカードで小銃のようなものを人数分召喚する。ここに何かが攻めてくるのを男たちは感じ取った


2011/2/20
小銃の使い方はそれに触れた瞬間理解できた
男たちはそれぞれ4つの入口を守って小銃を構える
エレウェーはまだ何か召喚するようだった。カードを取り出し集中している
何かの這いずる音が聞こえたと思ったら次第にそれは近づいてくる
突然闇の中から巨大な生き物たちが突進してくる! ワニだ! 小部屋に銃声が響いた


2011/2/21
ワニの皮膚は硬く、小銃でもなかなか仕留めることはできない。それが四方から襲ってくる
バリケードのひとつが突破された。だが、同時にエレウェーの召喚も成功した
エレウェーの前に奇妙な動物が現れる。ゴリラのような身体で頭は牛になっている
しかし、一瞬の隙をついてワニは男たちに襲いかかった
悲鳴が聞こえる。だが希一の意識は前方の通路から襲ってくるワニに完全に固定させられていた


2011/2/22
希一は最後の引き金を引き、目の前のワニを撃ち殺す。小部屋に静寂が訪れた
振り返ると部屋は酷い状況だった。バリケードの二つが破壊され、ワニと…哀れな男たちの肉塊が転がっている
先程の奇妙な動物はエレウェーを守り3匹のワニに食い付かれて絶命していた
希一と、他ふたりの男と、エレウェーだけがこの部屋で呼吸している
恐怖も怒りも戸惑いも希一は感じない。ただ、自分の感情が完全にエレウェーに支配されていることだけを感じた


2011/2/23
3人の男たちにエレウェーはもう少しましな装備を召喚した。冒険者の衣服や道具袋だ
彼女の持つカードには不定期に呪文が浮かび上がる。それを使うことで様々なものを召喚するのだった
二人の男、片方は大悟といいもう片方は完介というらしい。大悟は痩身でつり目、完介は太めで頭髪が薄い
エレウェーは結んだ長い髪を揺らし、カードに浮かぶ呪文を値踏みしている
装備を整えるとすぐ彼らは移動を開始した。エレウェーは言う。「反撃に転じなきゃね」


2011/2/26
4人は通路を下へ下ってゆき、広大な地下空間へとたどり着いた
洞窟のような岩肌をくりぬいた場所で、天井のあちこちに穴があいている
穴のいくつかからは水が滝になって流れ落ちていた。地面のほとんどが浅い地底湖になっている
エレウェーはカードを取り出し、集中し始めた
突然カードから唸るような音が聞こえると黒い雲のようなものが飛び出す


2011/3/2
飛びだしてきたのはコウモリの群れだった
それが天井の穴に殺到しどこかへと飛んでいった
希一は、「コウモリで何ができるんだ?」とエレウェーに聞く
エレウェーはニヤリと笑うと、黙ったまま次の召喚の準備をする
「コウモリはウィルスを媒介する。もしかしたら…」と完介がつぶやいた


2011/3/7
エレウェーは次に黒いネズミの群れを召喚した
ネズミは猛烈な勢いで通路の先へと消えていく
希一は彼女が何を企んでいるかわかった気がした
エレウェーはニヤリと笑うと「持久戦の用意よ」と言う
一行はさらに奥地へと移動を開始した


2011/4/10
一行は初めて出会った場所のような小部屋にたどり着き
そこで一晩休憩することにした
もっともいまが昼か夜かさえわからない遺跡の奥だったけれども
エレウェーは一晩中ぐっすり眠ったが、男たちは交代で仮眠と見張りを繰り返した
彼女の支配は恐ろしく、その無防備な姿を見ても何をするわけでもなしに男たちは命令を遂行した


2011/5/23
エレウェーは起き上がると懐中時計のような小さな精密機械を操作して
次なる目的地へと男たちを引き連れていった
男たちは初日手に入れた小銃を手にあたりを警戒し突き進む
一行は階段や坂を下り、遺跡の深く深くへと進んでいった
希一はやがて通路の先に何か重機が放置された玄室を見つけた


2011/6/13
エレウェーは男たちに重機を解体するよう命令した
汗だくになって重機を解体する大悟、完介、そして希一
エレウェーが解体道具を召喚しなかったらかなりの時間がかかったろう
やがて大悟は燃料タンクのようなものを見つけた
それこそがエレウェーの探していたものだった


2011/6/14
彼女はカードを取り出し新たなものを召喚しはじめた
やがて、荷車を持った商人風の小男が目の前に現れる
黒い丸サングラスをつけた怪しいやつだ。さっそく燃料タンクを値踏みしはじめた
「へぇへぇ、結構なもので。カード二枚だね」「ありがとう」
二枚のカードをエレウェーに渡し燃料タンクを荷車に積むと、男は煙のように消えてしまった


2011/6/15
「さて、状況を整理しましょうか」エレウェーは3人に向かって話し始めた
「現在わたしは敵プレイヤーからの攻撃を受けている。敵は先日勝負に出たけどなんとか耐えられた」
「わたしの戦力はあなたたち3人と小銃装備、放っておいた伝染コウモリと疫病ネズミ、そして手持ち2枚のカード」
「カードの補給は遺跡探索で得たものをカード商人と交換するのがいちばん簡単だわ」
「敵は先日の総攻撃で手札が尽きたはず。敵の立ち上がりの前にこの戦力で叩く。よろしくて?」


2011/6/17
彼女は手に入れた二枚のカードに浮かぶ模様を見つめていた
そしてにやりと笑い、号令をかけてまた新たな場所へと歩みだす
希一たちはとにかく精神が支配されているので付き従うほかなかった
エレウェーから伝わる情報からは、どんどん敵から遠ざかっているのがわかる
やがて4人は巨大な地下水脈へとたどり着いた。暗闇の空間が広がる自然の地下水路だ


2011/6/18
「さて、逃げられる所までは逃げた、と」
エレウェーはつぶやく。どうやらここがこのダンジョンの果てらしい
「一枚目は……あなた」
カードを振りかざし、祈りを捧げるエレウェー。召喚の儀式が始まった
そして出てきたのは黒い……蠢くものだった。希一は不定形に動くそれが蟻の大群だとわかった


2011/6/22
黒い塊は次第に分散してゆき、あたり一面を黒い絨毯へと変える
「そろそろ来るよ。銃を構えて」
すると、向こうの通路から、肉塊のような人型の兵士が次々と殺到してきた
その肌は不健康そうな土気色に染まり、士気はあまり高そうではなかった
絨毯に踏み入れるたび兵士たちは身動きがとれなくなり、やすやすと希一たちに銃撃されて絶命した


2011/7/2
「追いかけっこはここまでよ。出てきなさい。大軍を引き連れて兵を疲弊させるなんて三流ね」
エレウェーは勝ち誇る。なるほど、ネズミやコウモリで敵を妨害しながら数で勝る敵を弱体化させていたのだと希一はわかった
この長い旅も敵を疲れさせるためだったのだろう。現に襲いかかる敵はもう数少なく、黒い絨毯を恐れ近寄らない
やがて通路の奥から黒いフードを目深にかぶった魔術師風の人物が姿を現した
性別や年齢はわからないが、赤い眼光だけが奇妙にぎらついている


2011/7/13
「卑怯ね、わたしが大軍召喚したと知って逃げだすなんて」
若い女性の声がフードの奥から聞こえた
「ドローゲームにしない?」
エレウェーは意外な提案をした。まだその手には未使用の手札が握られていると言うのに
フードの女性は表情を出すことなく、無言でローブの下からカードを取り出す


2011/7/16
「引き分けね、アンティの交換をしよう」
フードの女性はカードを差し出し告げる
エレウェーはそれと自分の最後のカードを交換し微笑む
生き残った軍勢をひきつれ、フードの女性は遺跡の奥へと消えていった
希一は構えた小銃を下ろし一息をつく。それを見てエレウェーは口角を上げながら囁いた


2011/8/22
「さて、あなたたち。おつかれさま」
すると希一は呼び出されたときのような浮遊感を覚え
そしてその視界はまたたくまにブラックアウトした
彼はやっと元の世界へと戻れると安堵したが…
ブラックアウトした視界は、いつまでも元には戻らなかった


2011/10/1
長い空虚な暗黒の時間が過ぎた
呼吸をしている感覚もない。心臓が動く気配もないかもしれない
意識だけがはっきりしたまま時間の凍結した虚無の空間に希一はいた
やがて凍りついた五感が例の浮遊感を唐突に伝える
気付いたときには、希一は風吹き抜ける雲ひとつない青空の草原にいた


2011/10/7
「もう帰れないと思った?」
希一は後ろにエレウェーがいることに気付いた
草原には次々とひとや怪物が現れてくる
「わたしは勝ったよ。この戦いに。長い長い、戦いに」
「君はウィニーだから最初の方しか出番なかったけど…役に立ったよ。さぁ、元の世界にお帰り」
そう言うとエレウェーは人差し指で希一の額を小突いた

……
………
気付くと希一は、最初の場所、PCの前で青いパジャマ姿でいた
寝落ちたときに見た夢であったのだろうか?
しかし、希一はパジャマのポケットに何かあることに気づく
それは一枚の手紙と硬く冷たいマスケットの弾丸であった
希一は手紙を読む――
◆TCG-第一部《完》







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