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――試験


 荒野のど真ん中に不思議な少年がいた。彼は何もない荒野に座って紐の先を見つめていた。その紐が奇妙なのだ。何の支えもなく、何かにぶら下がっているように空の先に伸びている。紐の先は空の青に溶けて見えない。

 レジルとミレウェは新婚旅行で世界一周をしている途中だった。馬車に乗って荒野を横断する際、この不思議な少年を見つけたのだ。ミレウェはこの少年に興味を持ち、馬車を止めた。護衛の冒険者もそれに従う。

 少年のそばには一人の老人が立っていた。ミレウェは白い日傘をさして馬車を降りた。
「もしもし、なにをなさっているのかしら?」
 彼女は二人に声をかける。

 レジルも続いて馬車を降りる。日差しがまぶしい7月の空は雲一つない晴天だった。老人は軽く帽子を取りあいさつをする。
「やぁやぁ、旅のお方。今日はこいつの試験の日なのさ」
 こいつというのは少年のことだろう。

 レジルもシルクハットを脱ぎ礼をする。
「紐で何かがわかるのですか?」 
「はは、これはシルフを獲る猟です。紐でシルフをひっかけるのです」
 なるほど、だが少年の傍らにある瓶はすべて空だ。

「少々見学してもよろしいですか?」 
「いいですとも。」
 レジルとミレウェは老人に話を聞いた。シルフ猟師の駆け出しであるこの少年は、今日最後の試験の日であった。

 だが、なかなかシルフは捕まらず、試験の終わりもあと1時間に迫っていた。シルフ猟は難しい仕事で、若いうちに適性を調べて進路を決めるのだ。しかし、少年は猟師になることを強く希望している。

「才能がないとは気軽には言えない……シルフは気紛れだからね。ひょっとしてもう捕まってもいいかもしれないのに意地悪してるかもな」
 少年は必死に集中し紐の感覚を手で感じ取ろうとしている。

 よく見ると少年の手や腕は擦り傷だらけで包帯が巻いてある。
「何年も頑張ってるんですがね……」
 老人はしみじみ語る。本人の努力だけではなく、シルフの気まぐれに左右される猟なのだ。

 紐は風になびき左右に揺れている。変わらないリズムで揺れているかに見えていたが、少年は動いた! 何かを感じたのだろうか、必死に紐を手繰り寄せる。老人はそれを静かに注視していた。

 紐の先がだんだん見えてくる……しかしそれは、ただの空き缶のようなものが紐の先に絡まっているだけだった。少年は肩を落とし、うなだれる。だが老人はそれに目を光らせた。

「ふむ……合格だ」 
「えっ」
 少年は驚いて老人を見る。老人はその空き缶のようなものを手にしみじみと語りだす。

「ゴミシルフといってな……見た目もゴミであり動きもせん。だが、たしかにこれもシルフなのだ」
 何の役にも立たないが、珍しいシルフなのだそうだ。

「なにはともあれ合格だ。精進しなさい」
 少年は嬉しそうに立ち上がり、レジルとミレウェに握手をした。ミレウェたちは馬車に戻り老人と少年に手を振って別れた。

「ねぇあなた、ゴミで役に立たないなんて嘘でしょう、あんなに喜んでいたんですもの」










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