――吸血鬼のお嬢様






お嬢様はいつだってわがままだ。
僕はお手伝いのミイラらしく掃除をしていた。
そんなときでもお嬢様は僕に退屈だから遊べと言ってくる。
僕は逆らえるようにできていないから、
頭上にリンゴを置かれてゴム銃の的になったりしていた。

次の日はまた掃除を中断させられて、
クッキー作りの手伝いに駆り出された。
お嬢様がオーブンのダイヤルを間違えたせいで、
僕の頑張りは炭の欠片に消えた。
お嬢様は怒って後片付けもせずに自室に帰ってしまった。

最近お嬢様は僕をよく呼び出す。
昔は月に一回くらい気まぐれで大変な目に会っていたのに、
最近は毎日だ。
旦那様が決めた縁談がそんなに気にいらないのだろうか。
遊びが終わるといつも悲しそうな顔で部屋に戻る。

今日は大切なお見合いの日だというのに、
朝から僕を連れてコケモモ摘みに連れて行かされた。
僕は屍人だから食べる必要は無いというのに、
コケモモを腹いっぱい詰め込まされた。
物を食べるなんて久しぶりだ。

コケモモを思う存分詰め込んだのか、
顔も見せずお嬢様はどこかへ行ってしまった。
僕は困ってひとり屋敷へ帰った。
自分の部屋である地下室に戻る。
そこには僕を作った死霊術師も住んでいる。

彼女は幽霊だった。死後もこの家に仕えている。
死霊術師は笑って食べ物を溶かす薬をくれた。
「なんであなたが死後も縛られてるか覚えてないんだね」 
そんなことを悲しい顔で言う。
僕はなにもわからない。僕は仕事をこなすだけだから。

死霊術師は壁にかかった色あせた写真を指さす。
そこには生前の彼女と、お嬢様と……
そして、お嬢様にキスされている照れた顔の青年が写っていた。
「覚えてない? お嬢様、いっぱい泣いて、わたしにお願いしたんだから」 
僕は何もわからなかったけれど、なんとなく……

なんとなく、懐かしい気がした。
午後、お嬢様に会った。
縁談は破談になったと嬉しそうな顔で僕に言った。
そして、一瞬だけど、僕にキスをした。

あの写真のように……。僕は、何もわからないことに少し悲しくなった。








もどる