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――城職人



 魔法で石塊を生成する。これはかなり疲労する作業だ。腹がとにかく減るので、一個生成するたび食事を取っている。食事を済ませると、こんどは石塊を整形する作業だ。綺麗なブロックになったら、今度はそれを積み上げ接着する。一連の作業は全て高度な魔法によって為される。

 荒野の真ん中に男が……魔法使いの城職人がいた。彼はそこに城を自らの力のみで建設しようとしているのだ。城はいまだ土台のままであったが、その土台はすでに完成しつつあった。また一つ石塊を生成し、彼は疲労で腰をおろし息を整えた。もう何度この作業を繰り返しただろうか。

 男は帝国式魔法使いの格好……つまりは詰襟の黒い軍服に宝石や刺繍をちりばめたマントを身に着けていた。あまり上質なものではなく薄汚れている。地方の魔法学校で支給される制服そのままだった。彼は石塊にもたれかかり座った。食事にしよう……そうしようとバスケットに手を伸ばす。

 バスケットの中には硬く焼きしめた乾パンが詰まっていた。食事というよりは、栄養補給のみを考えたメニューだ。乾パンを一つずつ口に含み、唾液で十分に柔らかくしながら噛みしめた。からからに乾いた乾パンを食べるとのどが渇いて仕方が無い。彼は水筒を手に取る。

 水筒の中には酷い味のする安いワインが入っている。薄く度数も低い。ワインで噛み砕いた乾パンを潤し飲み込む。男は口をぬぐい一息ついた。日はまだ高く青空が輝いていた。今日も男は日暮れまで城を作りつづけるだろう。男は横になった。しばらく休息を取ろう……そう思って。

 男はしばらく眠ってしまったようだ。馬車の車輪の音ではっと目が覚めた。眠い目をこすり起き上がると、目の前に馬車が止まっていた。この城の建設現場は街道に近いが、街道と言っても滅多に馬車など通る場所ではない。馬車から二人の男女が下りた。格好からして観光客のようだ。

「やぁ、こんにちは」
 若いシルクハットとスーツを着た紳士が挨拶する。隣にいるのは動きやすいドレスに革のコルセットをつけた貴婦人だ。スカートを摘んでお辞儀をする。帝都から来たのだろうか、高貴な身柄だった。男は慌てて立ち上がり礼を返す。

「私はレジル、こちらはミレウェだ。新婚旅行の途中でね」
「なるほど、ようこそ。何もない地方ですが……私は城職人のウルムです」
 男……ウルムは失礼、と二人に断り城の建設を再開した。レジルとミレウェはその様子を感心したように見ている。

「作業途中失礼……何か特別な命令でも受けているのですか」
「ああ、話しながらでも私は大丈夫です。……そうですねぇ、特に誰に何を言われてやっているわけでもないですね」
 レジルはそれだけでは腑に落ちなかった。ウルムはかなり身を削って建設に打ち込んでいるようだった。

 独力でここまで建設を続けるのは並大抵の苦労ではないだろう。何が彼を突き動かしてるかが分からなかった。
「不思議そうですね。実際自分でも分からないのですよ」
 それを察したウルムが気恥ずかしそうに続ける。

「古来人々は星座の導きによって運命が決定されるとかなんとか言ってましたが……強いて言えば、私はこういう風に運命づけられて生まれてきたのでしょうね。この世に生を受けて、気付けばこんな道を歩いている……心臓が動く理由を知っていますか? それは心臓自身知る必要もないですね」

 レジルは城職人の目を見た。まるで星が瞬く夜空のように澄んだ目をしていた。レジルはお辞儀をしてミレウェに旅を急ごうと言った。レジルもどこかウルムの気持ちが通じたように感じた。去り際に、レジルはウルムに向かって言葉をかける。

「荒野に立派なお城が建っていたら、きっと近い将来立派な観光名所になりますよ。それでは」
 城職人は振り向くことなく、作業を続けながら手を振ったのだった。


――


 ミレウェは馬車に揺られながら、きっと素晴らしいお城が出来るでしょうねと会話を弾ませていた。レジルは相槌をうちながら静かに考えていた。雷に打たれたように、神から啓示を受けたように、ひとは急にああなるだろうか? 恐らく……。レジルの考えは的中した。

 馬車で進んでいくと、荒野に城が建っていたのだ。しっかりとした石造りの城で、馬車を降り門を叩いてみても中には誰もいないようだった。見て! とミレウェがレジルを呼ぶ。その城の基礎に刻まれた名前こそ……ウルムのものだったのだ。

 馬車をさらに進ませる……すると、いくらかスケールダウンしているもののまた城があった。城が……街道沿いにいくつも建っているのだ。徐々に小さくなりながら、城は無数に建っていて恐らくそれはすべて、ウルムの作であろうと思われた。

 城は果てしなく等間隔に続いているように思えたが、終着点に小さな村を見つける。二人はその村に立ち寄ることにした。かやぶき屋根になるほど古い村ではなかったが、人の気配は少なく幾分か寂れていた。村人は畑で仕事をしているのだろうか。やっと一人の村人を見つける。

 村人は腰の曲がった老婆だった。ボロボロの繋ぎ合わせた服を着ている。ウルムのことを聞いてみると彼はこの村の出身だという。レジル達はウルムの生家を訪ねることにした。これも一つの観光だろう。目的の家にはウルムの親戚が暮らしていた。彼の部屋は保存してあると言う。

 親戚に許可を取って彼の部屋を覗いてみることにした。レジルはやはり、と頷いた。そこには……机の上に、積み木でできた小さな城が立てられていたのであった。











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