お題:彗星 都市 雪

 彗星がぶつかる……100年前に天文学者が予報し、それを信じて一つの街が作られた。それは砂漠の真ん中に建てられ、世界各地から様々な建築資材が運ばれて100年かけて築かれていったのだ。

 その街は彗星の街と呼ばれていた。摂氏40度にもなる気温の街。雨はほとんど降らず、長大なパイプラインで北のオアシスから水を運んでいる。なぜこんな砂漠のど真ん中に街を作ったのか……それはこの砂漠が彗星の衝突する場所だからだ。

 彗星が大地に衝突すると世界が滅びるほどの衝撃が襲うという。その盾としてこの街は作られたのだ。100年前から生きている5人の魔法使い、彼らに100年かけて準備させるためにこの場所に街を築いた。

 魔法使いたちはどれも若い青年に見えたが、何年たってもその姿は変わらなかった。彼らは彗星の衝撃を防ぐため、それぞれ変わった条件を求めた。

 一人目の魔法使いは大食いの魔法使いだった。彼は力をつけるためたくさんの食べ物を要求した。一日に牛一頭分の肉を食い、ざるに30個もあるほどの穀物を蒸かして食べた。野菜は象が食べるのと同じくらいの量だ。たくさんの食物が世界各地から集められ、彗星の街で消費された。

 二人目の魔法使いは酒好きの魔法使いだった。ビールやワインの樽を一日に20個も空けるほど飲みつくした。彼は一度も酔っている素振りを見せなかった。ただ、彼は決してアルコールが入っていない飲み物を飲まなかったし、飲んでもすぐまずいと言って吐きだした。

 三人目の魔法使いは宝石好きの魔法使いだった。世界各地から色々な宝石を集めさせては幾つもの蔵を立てて宝石を保管した。地下深くから天高くまで蔵が作られ、街の半分は宝石の蔵と化した。それを毎日彼は眺めて過ごしていた。

 四人目の魔法使いは音楽好きの魔法使いだった。彼は専用の楽団を100も持っていて、毎日違った曲を奏でさせた。街に音楽が溢れ、彗星の街の住人は静寂という概念が分からなくなってしまった。街のどこででも音楽は聞こえ、鳥は鳴く必要がなくなり歌を忘れてしまった。

 五人目の魔法使いは女好きの魔法使いだった。彼は千人もの美女を抱えていて、毎晩彼女たちと食事をしては会話を楽しんでいた。彼の傍には常に女性がいて、彼は女性たちを褒めたり笑わせたりしていた。

 そんな彼らの生活は100年続いた。世界の王様たちは本当に彼らが彗星を防いでくれるか心配だった。

 そしてとうとうその日がやってきたのだ。王様たちはみな彗星の街を訪れ、暑い夜で汗を流していた。5人の魔法使いは涼しそうな顔で街の天文台の屋上に立っている。王様たちは詰め寄った。本当に彗星を防いでくれるのかと。

 5人の魔法使いは口を揃えて同じセリフを同時に言った。

『いますぐここでご覧に見せましょう!』

 すると彼らの姿は一瞬で消え、夜空は真っ暗になった。そして突如として夜空に氷の球が姿を現したのだ。王様は知らなかったが、これが彗星の本体だった。彗星はゆっくりと粉々になっていった。

 まるで煙のようにゆっくりと彗星は夜空に溶けていく。そして、何か冷たい粒がゆっくりと降りてきたのだ。雪だ、雪だ! 街のあちこちで声が上がる。王様は唖然とした。砂漠の真ん中で、雪が降ったのだ。

 王様の一人が、いつの間にか街の音楽が途切れていることに気付いた。皆が気付いたときには、食料庫も酒蔵も空になっていた。宝石の蔵も全て空になり、音楽隊も美女たちも全員姿を消していたのだった。

 5人の魔法使いは、それ以降姿を現すことは無かった。










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