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お題:開く 閉じる 落ちる


 山奥の洞窟の奥に、不思議な扉があった。その扉は機械仕掛けで、裸電球が幾つも灯っていた。扉や周りの機械は鉄と真鍮で出来ていて、赤や青の配線が幾つも伸びている。床は鉄板で覆われており、扉の中心には一つのボタンがあった。

 その山のふもとにある村には一つの儀式が伝わっている。村の若者の中で選ばれた一人が、その洞窟へ赴きボタンを押してくるのだ。その儀式以外でボタンを押すことは禁じられていた。

 寒い冬のことだった。今年も神殿の奥で儀式が行われ、長老は一人の青年を選んだ。彼は優しく、誠実で、背の高い青年だった。村の娘や青年の親は悲しみに暮れてしまう。なぜなら、儀式によってボタンを押しに行った若者は、誰ひとりとして帰ってこないのだった。

 青年自身は特に悲しむことは無く飄々としていた。青年は鮮やかな色の服を着て、毎晩酒を飲んだ。村の皆は最後の別れのように青年との日々を過ごした。それを影から見つめる一人の村娘がいた。

 村娘はいつもその青年のことを思っていたが、それももう少しの時間になってしまった。とうとう青年は洞窟へと一人赴く。娘は思わず村の掟を破り青年の後を追いかけた。誰にも見られないように明かりも持たず、手探りで洞窟を這い進んだ。

 娘は手や膝をすりむきながら、やっとのことで明かりを見つけることができた。裸電球で照らされた機械の扉、それを影から見ていた。扉の前には、青年がいる。

 青年は扉のボタンに恐る恐る手を伸ばし、押す。するとガラガラと歯車が回る音がして、扉が開いたのだ! 扉の向こうには……春の草原が広がっていた。甘い花の匂いを乗せた春風が娘の方にも流れてくる。青年はふっと笑うと、草原の向こうへとどんどん歩いていく。

 娘は声をかけることも出来ず、しかし離されないようにと洞窟の陰から駆け出した。しかし扉はまたガラガラと音を立ててしまって閉まったのだ。娘はどうにかして彼を追いかけたかった。このボタンを押せば、もう一度扉が開くのだろうか?

 彼女はボタンに手を伸ばし、そしてどきりとして引っ込めた。このボタンは儀式以外では決して押してはいけない。そう言われているのだ。しかし、娘は青年に会いたい一心でボタンを押す。

 次の瞬間、鉄板の床が真っ二つに割れ、娘は闇の中へと落ちていった……。


 娘は目を覚ました。ここは自分の家のようだ。自分は昨晩何をしていたのだろうか、娘は誰かを追いかけていたような気がするが、それが誰の事だか分からなかった。彼女は……何故か膝や手のひらを擦りむいていることに気付き、不思議に思ったのだった。










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