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――火の靴下


 暖炉の火が赤々と燃えている。静かな冬の部屋は少し寒かったけれど、暖炉の前にいるとその火の光でじんわりと暖まることができた。木の板で出来た古い部屋の壁は隙間風がぴゅうぴゅうと吹き付けてくるのだが、今日は風もなかった。部屋の明かりは消され暖炉だけが暗い部屋で輝いている。

 赤い毛糸のストールを身に纏った娘が暖炉の前でうたた寝をしていた。手には編みかけのレース。娘の顔には少し疲れが見えていた。延々とレースを編んでいたのだろう。暖炉の薪は炭になりもうほとんど残っていない。パチパチとはぜる音もだんだん小さくなっていった。

 娘はまどろみの中にいた。彼女はいつもこうして消えかけの暖炉の前でうたた寝をするのだ。一日の最後の疲れを癒す楽しみの一つだった。暖炉の火の暖かさが彼女を心地よくさせた。すると、暖炉の火が踊り始めた。もう燃料は少ないのに……。娘はまだうつらうつらとしている。

 すると、暖炉の火がいくつも転がり落ちてきた! 娘はびっくりして転がり落ちた火を見る。それは一見火の玉に見えたが、すぐに赤い毛並みをしたネズミであることに気付いた。暖炉の火から生まれ出たように見える。娘は興味深そうにその赤いネズミを見つめた。

 ネズミはしばらくその場をぐるぐると回っていたが、やがて何か手を動かし始めた。娘はうとうとしながらその様子を見つめていた。ネズミから火のような揺らめきが立ち上り、それを彼らは紡いで糸にしているのだ。まるでネズミが蚕の繭のようだ。

 糸が十分な長さになった頃、ネズミたちはその火の糸を織り始めた。メリヤスを編むように行ったり来たりぐるぐる回ったりしている。娘はネズミに気付かれないよう寝たふりをしながらじっとその様子を見つめていた。美しい赤が揺らめき、まるで燃えているようだった。

 やがて作業はずんずんと進んでゆき、一足の靴下が出来上がった。赤と橙のストライプが美しい暖かそうな靴下だ。ネズミたちはぱちぱちと拍手をして喜んでいた。拍手するたび手から火花が散ったのだった。娘は嬉しくなってネズミたちに気付かれないよう微笑んだ。

 ネズミたちはそれから、靴下を娘にはかせはじめた。娘は起きていることを悟られないようにしていた。ネズミたちは、ぎこちなくもやっとのことで靴下を両方はかせ終わった。ネズミたちは頷きあうと、一斉に暖炉の火の中に飛び込んでいった。後にはネズミの毛ひとつ残らなかった。

 娘は靴下を見つめうっとりとした。何故こんな素晴らしいプレゼントを暖炉の火はくれたのだろうか? きっと毎日この暖炉の前でレースを編んでいたので、暖炉がご褒美にくれたのだろう。赤い靴下は冷え症の娘にもわかるほど非常に暖かく、娘はまた夢見心地になる。

 足先から溶けていくような気持ちよさだ。娘はまた夢の扉へと向かっていた。意識が薄れ、暖炉の火のような暖かさに包まれて……そして朝になって目覚めた。靴下はいつの間にか無くなっていた。あれは夢だったのだろうか。娘はひどくがっかりしてしまった。

 暖炉の火は消えていた。後に残るのは白い灰だけだ。娘が薪を新たに投げ入れて灰が舞った。小枝や落ち葉を集めた「そだ」を薪の下に詰め込み、マッチを擦って火をつける。火はだんだんと大きくなり、やがて赤々と燃え始めた。娘は大きく背伸びをすると、レース編みを始めた。

――そうだ、この仕事が終わったら、靴下を編もう。赤くて暖かそうな靴下を――
 娘の足先は、まだじんわりと暖かく、冷え性なことを忘れさせるほどだった。











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