お題:魔女 コタツ しりとり


「あれ、こんなコタツあったっけ……」

 青年は冬支度を始めるため、納屋でコタツを探している最中だった。今年の冬も寒く、コタツがあるとありがたい。だが、納屋で彼が目にしたものはただのコタツだけではなかった。

 見知った普通のコタツの奥にもう一つコタツがある。それは最初影になって分からなかったが、黒い黒檀のような立派な木でできた、しっかりしたコタツだった。電熱器は何故か緑色をしており、足が折りたたまれて棚の下にしまってあった。

「これも使えるやつなのかな……」

 黒いコタツの埃を払い引っ張りだす。黒いコタツはずっしりと重く、すべすべしていた。物珍しさから、青年はそのコタツを納屋から持ち帰ることにした。かなりの高級品のようだ。生活に少し色どりが加わるだろう。誰が買ったのか分からないが、両親が昔買ったものかもしれない。記憶には無いが。

 早速自室に設置しこたつ布団をかける。こたつの上にはもちろん蜜柑だ。スイッチを入れると、ブーンと微かな音がした。ちゃんと温まっているかどうか布団をめくって確かめてみる。暗いコタツの中で電熱器が緑色に発光していた。手をかざすと確かに温かい光が出ている。壊れていないようだ。安心して青年はコタツの中から顔を上げる。

 青年はそこでぎょっとした。青年の向かい側に、同じ年ごろくらいの娘がコタツにあたっていたのだ。

「い、いつのまに! 君は誰だい」
「ねぇ、しりとりしようよ」

 娘は黒い服を着ていて、まるで葬式帰りのようだった。黒いつややかな髪を肩で揃えていて、緑の双眸が怪しく光る。常人ではない雰囲気を纏っていた。青年はコタツを持ってきたことを後悔した。

 このコタツは呪われたコタツなのだ。邪悪な魔女が作った恐ろしい罠。この娘はきっと自分を魔法にかけてしまうに違いない。青年は酷く怯えたが、身体が動かず逃げることはできなかった。

「しりとりしようよ。わたしからね、バナナ」
「な、なめこ」

 コタツにあたりながら青年と娘はしりとりを続ける。魔女というのはたまにこうして人里に出てひとを惑わすという。何が目的か分からなかった。ただでは帰されないということもある。一刻も早くこのしりとりを終わらせたかった。

「……くるみ。つぎは、み、だよ」
「みかん。はは、僕の負けだ」

 強引に自分が負けて終わらせることにした。娘は一瞬むっとした表情になる。しまった。彼女の怒りを買ってしまったか……彼はすかさず次の言葉を繰り出した。

「蜜柑をどうぞ、お嬢さん。おいしい蜜柑だよ」
 そう言って青年は机の上にあった蜜柑を差し出した。娘はにこりと笑って蜜柑を受け取った。娘は手早く蜜柑を剥くと、小分けにせず塊のまま口に含んだ。

「御馳走様。また蜜柑を食べにくるよ。次はもっと面白い遊びをしようね」

 そう言うと娘は蜘蛛の巣のような糸になって四方に拡散した。青年の顔や体、部屋中に糸が散らばる。そのまま糸は空気に溶けるように消えていった。

 どうやら魔女に気にいられたらしい。困ったものだ。呪いの品はただでは捨てられないと聞く。彼は観念すると、女の子と話すのも悪くないと思い広告のチラシからおいしい蜜柑を探し始めたのだった。










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