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――図書館


 一人の少年がいた。彼はいつも見知らぬ世界を空想していた。たくさんの物語、たくさんの人々を夢想した。彼の想像は極彩色に彩られ、胸のワクワクするような物語が渦巻き、彼は全く退屈するということを知らなかった。

 夜空を眺めては星の物語を紡ぎ、朝になれば朝露に消える儚い物語に悲しんだ。飛ぶ鳥のように自由に物語を作りたい、虹のように美しい色彩を伝えたいと思っていた。だが少年は若すぎて、そのすべを信じ切れなかった。筆をとるのが怖かった。まだ自分は未熟だと思っていたのだ。

 ある日、その少年の住む街に遺跡が発掘された。土地調査の際発見されたその石造りの建造物跡は全て土で埋もれていたが、すぐさま考古学者たちの手によって土は掘りだされその全貌が明らかになりつつあった。しかし、奇妙な部屋がひとつ発見されたのだ。

 その部屋は正方形の小さな部屋だったが、小さい入口から覗く部屋の内部が暗黒で満たされているのだ。暗黒の中は空洞のようで手やスコップを入れることができたが、空を切るばかりだ。音も反響せず光も通さない。誰か入ってみようとしたが、余りにも不気味で誰も入ろうとしなかった。

 一人の調査員が、昼食の余りのりんごを思い切ってその暗黒に投げ入れてみる。何かにぶつかる音さえ聞こえない。一層不気味さが増し、調査をやめようとした矢先、何かが暗黒から投げ返されてきた! 調査員はみな驚きその場を離れた。投げ返された物体は……なんと、1冊の本だった。

 恐る恐る本を読んでみる。するとそこにはりんごにまつわる様々な話が書かれていた。りんごの木にとまった鳥の歌、夏の日差し、収穫を待つ日々……これはもしや、と調査員の一人は思い、スコップをひとつ暗黒の中へ投げ入れる。すると、また本が一冊返ってきたのだ!

 読んでみると、それは確かにスコップについて書かれた書物であった。
「この暗黒は、投げ入れた物を本にしてしまうんだ……」 
 その噂は街中を駆け巡った。不思議な話もあるものだ。古代の本屋なのだろうか。噂は広がり、ついにあの少年の耳にも入った。

 少年は、自分がその暗黒の中へ入ってみたくなった。この自分が考えている物語をぜんぶ本にできたらどれだけ素晴らしいことだろう。それは少年の夢だった。それを考えると、頭の中に今まで考えてきた物語たちが早く外に出してくれと騒ぎ立てるのだ。

 少年は居ても立ってもいられなくなり、夜を待って遺跡に忍び込んだ。目的の場所はすぐ見つかった。月の明かりも届かない暗黒。彼は思いきって暗黒に身を投げる。


――


 数年後、新婚旅行に来ていたレジルとミレウェはその街へと辿りついた。新婚旅行に選んだ有名な観光地。その街はすっかり様変わりして活気に包まれていた。二人は乗合馬車から下りて。街の大通りを見渡す。そこにはどこにもかしこにも本が積まれていた。

「まぁ、ここが有名な図書館都市ね」 
 その街は、無限に見たこともない物語の本が湧きあがる都市として有名になっていた。










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