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――機械の役目


 この街には代々不思議な機械が受け継がれていた。それは黒いフレームと真鍮の部品でできた直方体の機械であった。大きさも冷蔵庫ほどだ。キュッキュッと小気味いい動作音をしているが、何をしているかはわからない。何のための機械かもわからない。

 それはずっと昔からあった。この街が出来るより昔から存在していた。いまこの機械は市役所の地下に安置されているが、ずっと昔からこの場所にあり、その上に市役所を建てたのだ。伝説がひとつ受け継がれていた。それは……この機械が何かを生みだす機械であること。

 だが、その操作方法は完全に散逸していた。機械の表面にはいくつものボタンやレバーが備わっていたが、間違った操作を行うと瞬時に機械の表面から緑色の光線が投射され周りのひとを傷つけるのだ。そのため人々は……長い年月をかけて操作マニュアルを作ってきた。

 複雑な操作方法であり、決まった手順があるようだ。間違うたび、正しい方の操作を記録していくのだ。一回間違うと例の光線を発し、クールダウンのため3日間は無反応になる。そしてまた最初から操作をせねばならない。

 研究員のミノラはこの機械を研究する市の役員だ。こんな複雑な処理をせねば手に入れられないものとは何だろうか……失敗するたび期待が膨らんでいく。だが先代の研究員はとうとうその謎を解き明かすことなく老衰で亡くなった。研究は……100年にもわたって続いているのだ。

 しかしその100年の努力と研究の末、マニュアルはついに完成しようとしていた。ミノラはボタンを手順通り押し、レバーを手順通り上げ下げする。ダイヤルを回し、スイッチを入れたり切ったりする。作業進行度を現しているとされるメーターは、ほとんど振り切れそうだ。

 ミノラは完成を目前にして小休止することにした。もう三日も操作を行っているのだ。市役所の地下は暖房が入っておらずひんやりとしている。電気ケーブルを引っ張ってきて動かしているヒーターとスポットライト以外の熱源はない。彼女は水筒から温かいお茶を出して飲んだ。

 お茶のさわやかな香りで意識が覚醒してくる。ここが正念場だ。ここまではマニュアル通りに来た。しかし、次の手順はわからない。幾度となく失敗した経験から、どうやら機械の3d-5と名付けられた赤いレバーをニュートラルから上か下に振ることだけは分かってきた。

 というのも、それ以外の操作は全て行い、失敗してきたのだ。この3d-5レバーは使用頻度が少ないため、いつも後回しにしていた。もうすぐ……もうすぐなのだ。ミノラは震える呼吸を抑えるため深呼吸した。息が3d-5と書かれたレバーの付箋を揺らす。

 蜘蛛の巣の張る地下室にはミノラしかいなかった。誰も、この機械に期待してはいない。ミノラはレバーに手をかける。この機械のことを馬鹿にした連中を見返してやりたい。この機械はきっと素晴らしいものを生みだすのだ。彼女は信じていた。信じたまま亡くなった先代のように。

「……よし!」
 ミノラは思い切ってレバーを上げた! 失敗すればこの機械は発光し殺傷性のある緑の光線を放つだろう。時が止まる。1秒……2秒……3秒たった。機械に変化はない。しかし、そのキュッキュッと鳴っていた動作音に異変が起こった。カリカリと何か引っかくような……。

 はっとしてメーターを……作業進行度を現しているとされるメーターを見る。針は完全に振りきれていた。やった……やったのだ。とうとう機械の謎が明かされる。ミノラはレバーから手を離しゆっくり後ずさる。機械の異常音はどんどん大きくなる。

 次の瞬間。赤い光を放ちながら機械は分解を始める! パーツごとに規則正しく切れ目が入り、上の方から崩れていった。ミノラは慌てたが、どうすることもできない。あっという間に機械はがらくたの山になった。まさか……失敗したというのか?

 ミノラはがらくたの山に駆けよると、涙を浮かべながら機械を漁り始めた。自分の努力の結果ががらくたの山だなんて……そんなのは苦しすぎた。この機械は古代人の残した大がかりないたずらだったのだろうか。自分は……何を信じていたのだろうか。

 今まで光線に焼かれるどんな痛みよりも、心が苦しく張り裂けそうだった。何か、何かあるはずだ。黒いフレームの断片や金色に輝く機械をかき分け……ミノラはとうとう緑の箱を見つけた。これだ、きっとこれなのだ。これを守るために、あの機械はあったのだろうか。

 恐る恐る箱を開ける。すると……中には綺麗な緑の宝玉が収まっていた。透明で、中に膝を抱え眠っている妖精が見える。ただそれだけの物かもしれない。何の役にも立たないかもしれない。けれども、ミノラにとってそれは何物にも代えがたい宝物に見えた。

 ミノラは宝玉を大切に抱きかかえ、涙した。涙がひと粒零れおち、宝玉に落ちる。すると中の妖精は眼を覚まし、それを愛おしそうに眺めたのだった。










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