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――記憶


 ミス市の郊外、集合住宅107号にレミンたちは車で向かっていた。石畳で舗装された道が続き、あたりは一面麦畑が広がっている。麦畑の中心に、城のような灰色の巨大な建築物が立っている。あれが例の集合住宅だ。あそこで一人の魔法使いが亡くなったのだ。レミンたちは市の役員である。

 その魔法使いは身寄りがいなかったため、遺品を整理に来たのだ。売れそうなものは競売にかけ、いらないものは処分する。魔法使いは高齢で、いつものように散歩に出かけた途中倒れ息を引き取った。住人に頼まれまじないをしたりしてひっそりと暮らしていたらしい。

 レミンは市の魔法使い担当だ。大学で魔法を少し習った程度で魔法は使えないが、彼女の知識を買って配属された。ミス市は人手のいない地方の自治体だったため、ほかの担当はろくに魔法を知らない。しかし魔法はとても危険なため、レミンはいつもこの仕事に不安を抱えていた。

「今日の仕事はたぶんだいじょうぶでぇ」
 年配の上司が緊張するレミンに声をかける。レミンは心配で硬くなっていた。
「課長、大変なんですって。甘く見てるとカエルにされたりするんですって」
 レミンの脳裏には大学で学んださまざまな恐ろしい呪いが渦巻いている。

 「心配性だのう、今回の魔法使いは優しくて住民からの信頼もあって危険ではないでぇ」
 車は集合住宅の駐車場に停車し、レミンたち4人の市役員は魔法使いの部屋に向かった。魔法式のエレベーターは音もなく4人を乗せて上昇する。

 目的の部屋は8階にあった。ドアの鍵を開けて中に慎重に入る。すると、部屋の中は本で満たされてていた。革表紙の本がいたるところに積み上げられ、本棚もびっしりだ。レミンは護符を手に巻き、慎重に本の1冊を開く。魔法の本である可能性が高い。手書きの本の文字を慎重に読む。

「あー、課長。これは日記です。……これも、これも」
 部屋にたくさんあった本のほとんどは、日記だったのだ。魔法使いとはいえ日記は価値がない。いらないものの台車に乗せていく。売れそうなものはあまりなかった。台車にはたくさんの日記が積み上がってしまう。

「危険なものはないですね……この日記どうしましょ」
 レミンは課長に判断を仰ぐ。今回は安心できそうだ。危険な魔法使いだったならば本を開いた瞬間呪いが発動することもあると学んでいた。
「む……役所の焼却炉で焼いてしまおうか」
 課長が言った……その時である。

 急に台車の日記たちがざわめき始めたのだ。バタバタと開いたり閉じたりした、まるで暴れているようだ。レミンは驚いた。まさか魔法仕掛けだったとは、手に巻いた護符をかざして身を守ろうとする。しかし、襲い掛かる気配はなく日記たちは蝶のように羽ばたき飛び始めた。

 急に誰も触れていないのに窓が開き、蝶のように羽ばたく日記が次々と飛び立っていく。まるで笑い声のようなささやきが部屋の中に満たされた。暖かなささやきだった。レミンは呆然としてその様子を眺めるしかなかった。

 日記はすべて飛び立ってしまった。課長はやれやれといった様子だ。
「楽しい思い出だったんだろうなぁ、燃やされちゃたまらんてか」
 レミンは安心してふっとため息をついた。

「きっと幸せな人生だったのでしょうね」 










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