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――鏡の街の観光客


 夕日は西に沈むと言うが、この街では東に沈む。風の向きは周辺の街と逆になり、天気も真逆だ。鏡の街と呼ばれるこの街では全てがあべこべなのだ。この街は完全に正方形の城壁に囲まれ、中心に大きな広場がある。規則正しい格子状の道で区切られた計画都市だ。

 観光客のフィルとレッドは、未明のうちにこの街に到着した。蒸気式の乗り合いバスが荒野のど真ん中にある高い城壁のある街の門の前に停車する。観光客がぞろぞろと下りてくる。ここは帝都にも近く交通の便がいい。フィルとレッドはまるで出勤前の会社員のようなスーツ姿だ。

 この街は観光名所として名高く彼らのような観光客がよく訪れる。しかし城門で手続きをしなければ中には入れない。入るのにも税金が必要で観光資源を大量に吸い上げているのだ。城門の脇には官吏がいた。書類にサインをしてもらう。

「見たか、フィル。あの役人左利きだぜ。徹底してるな」 
「まさか、偶然だろう」 
 しかし書類を見ると文字の流れる方向が逆になっているのであながちそれもあべこべの一つかもしれない。税金を払い、彼らは街に入るのを許された。

 街の通りは普通と変わらないようだった。やはり文字の向きが逆ではあるが、石畳の綺麗な道や軒を連ねる店舗、等間隔に配置された街灯や街路樹などは普通と同じだ。辺りは薄暗く街灯がまだ灯っている。流石に開いている店舗は見当たらない。

 日が……西から差してきた。夜明けのようだ。鳥たちがざわめき始め、朝の歌を歌う。
「レッド、ちょっと早すぎたようだな、土産も買えない」 
「なぁに、帰るときには開いてるさ。それに今の方が人が少なくていい」 

「レッド、寒いし暗いしであんまり観光日和じゃないなぁ、はやく温かいのが食いたいよ」 
「なぁフィル、俺達の性格まで入れ替わってないか?」 
 確かにフィルの方が子供っぽくなっているのだ。レッドはいつものフィルのように落ち付いている。不思議な話だ。これも鏡の呪いか。

 観光の目玉は、この先の街の中心、中央広場のその真ん中にある。この街を歪めている呪われた存在。いや、今では立派な観光資源をもたらすランドマークがそこにあるのだ。二人は広場へと向かった。そんなに大きな街ではないのですぐ目的地に辿りついた。

 そこには大きな長方形の薄い両面鏡が立ててあった。街の通りを映すように立てられ、フィルとレッドの姿を映す。
「なんだ、ただの鏡じゃないか」 
「フィル、これを見てみろ」 
 鏡の正面には小さな石碑が立てられている。

”自分では見えない自分の表情も普通の鏡はあべこべです” 
”でもここではあべこべのあべこべだから本当の表情が見れるのです” 
 石碑にはそう書いてあった。
「なるほど、これが本当の顔ねぇ」 

 二人はその顔をじっくりと見てみる。なるほど、鏡を2枚使えば見れるものと変わりはしないかもしれないが、その表情はどこか自分の心を見透かしたようだった。

「性格が入れ替わったように見えて、じつはこれが本当の俺達の心だったりな」










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