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お題:イルカ 汽車 雪


 汽車の中でうたた寝をしていた。大陸を縦断する特急列車である。席に座り、夜のサバンナを見つめていた。野生動物が時折群れをなして見える。彼らも眠っているのだろうか。汽車は爛々と照明を輝かせ、サバンナの闇を照らしていた。

 汽笛が何度も鳴っている。乗客は自分だけなので文句を言う者もいないだろう。線路上に動物でもいたのだろうか。小腹がすいてきたのでクッキーの箱を鞄から取り出し、一つ二つと口に放り込んだ。

 ゆっくりと咀嚼し、水筒を傾けて喉を潤した。少し顎を動かしたので目が覚めてきた。水筒の中のぬるくなったお茶のせいもあるかもしれない。ブツブツとスピーカーがノイズを発し、次の停車駅の名前を告げる。9時に到着するらしい。

 乗客は自分だけだ。寂しいので誰か乗ってくればいい。そう考えながら再びサバンナの夜景を楽しんだ。汽車の速度はだんだんと遅くなり、とうとうサバンナのど真ん中で停車した。

 窓から外を眺めても、そこには街や駅など無い。それでいいのだ。自分は孤独な一人旅を続けている。旅の道連れがいなくたって、自分が一人目的地へ辿りつければそれでいい。車内に熱気がこもってきたので、窓を少し開けた。涼しい夜風が流れ込んできて、彼は再び心地よい眠りに誘われる。

 すると、せっかく眠ろうとしていたのに誰かの話声が聞こえてきたのだ。話声はゆっくりとこちらに近づいてくる。そして、車両のドアが開いた。ドアの向こうにいたのは……イルカだった。イルカが直立している。杖をつき、人間のように眼鏡をかけていた。

 イルカから一歩遅れて荷物を抱えた娘が姿を現した。こちらは普通の人間だ。紫のワンピースを着ていて、赤い靴が目を引いた。

「おや、乗客とは珍しい。わたしの一人旅かと思いましたよ」

 右手を上げて挨拶をする。イルカもまた、杖を掲げて挨拶を返した。娘はにこりと笑ってお辞儀をする。イルカと娘は男の向かいの席の窓側に向かい合うようにして座った。しばらく沈黙が続き、汽車はまた動き始めた。

「君はずっと一人旅だったのかね」

 イルカは男の方を向き話しかけてきた。笑って返事を返す。気さくなイルカだ。

「ええ。乗客はいましたが、皆乗ったり降りたりしてさっきまでは誰もいませんでした。あなたも終着駅へ行きたいのですか?」

「ええ。わたしはずっとサバンナで暮らしていましたが、雪を見たくなりましてね……。終着駅の北国には、雪が降るっていうじゃありませんか」

「へぇ、サバンナにもイルカが住むんですか」

「いやわたしだけですよ。わたしと……わたしの娘だけです」

 紫のワンピースの娘がにこりと笑って礼をした。どうやらイルカの娘らしい。そうには見えないが。

「イルカは群れで生きると聞きました。サバンナに一人は寂しかったでしょう」

「いや、イルカはいなくても気のいい動物たちがたくさんいましたから……」

「この列車に乗っているってことは、そこから逃げ出したかったのでしょう」

 男は急に意地悪く核心めいた話を切り出した。恐らくこのイルカは自分と同じなのだろう。全てを捨てて北へと向かう旅人。

「いやはや、何でもお見通しだ」

 そのとき、汽車のスピーカーがブツブツとノイズを発し、アナウンスを告げた。次の駅まで1日かかるという。

「北には全てが流れ着くと言いますしね。長い旅を続けましょう」

 流れ着いた先に何があるかは分からない。ただ、旅人たちは北を目指し、夜の原野を走り抜けていく。










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