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 ダンジョン儲かってますか?#1 少女のお店


◆1


 苔むした遺跡に一人の少女がいた。先駆者がかけてくれた魔法……照明の魔法が辺りをぼんやりと照らしてくれている。それを糧に成長する苔。魔力を食らう不気味な生き物。そんな光景に似合わない、あか抜けない少女だった。

「げへへ、カワイイ剣ですね〜」

 落ちている剣を拾う。

 ここはいわゆるダンジョンだ。危険な生物が生息し、荒くれものどもが殴り込む戦場。少女……名をレェラと言う。レェラは戦いのイメージからは遠い。それもそうだ、彼女は戦士ではなく商人なのだから。背中には拾い集めた雑多な道具類、武器類。
 見渡す石造りの空間に落し物は無いようだ。

 緊急用、そして移動用にテレポートの呪文を多用する。そのためにインプラントもした。商品を確保したレェラはテレポートで自分の店に戻る。
 遺跡の中の日当たりの良い場所。結界が張られた一人だけの店に、レェラは帰還した。周囲に客の姿はない。店先に統一性のない拾い物を並べる。

「はぁ、今日は売れるのかなぁ」

 客がいないことをいいことに愚痴を一つ。天井の穴から覗く青空は能天気。ダンジョン商人といえば華々しい職業だ。死線をかいくぐり商品を拾い集め、高値で売る。冒険者も大量の物資を持ちこまずにダンジョンの内部で補給ができる。客足は途絶えないはずだった。

 ところがこのレェラ、最近店を始めたものの思うように商品が売れていない。仕事道具のテレポートの魔法は消耗品でお金がかかる。このままでは破産だ。

「私だけ変な物拾ってるわけでもないのに……ん!」

 愚痴をやめる。前方に伸びる通路の奥から誰かがやってきた。

 背の高いスーツの女性。鎧兜や魔法服の冒険者ではない、街の人間だ。

「レェラ様、お変わりありませんか?」

「あっ、ディーマさん、グヘヘ、相談したいことが!」

 ようやく笑顔が戻ったレェラ。よく笑顔が汚いと言われる。ディーマには世話になっており、今回も彼女に頼ろうと思う。

「せっかくお店を開くお手伝いをしてもらったのに、全然商品が売れなくて……」

「なるほど、それは大変でございます。わたくしどもとしましても、プロデュースしたショップが閉店となったら名に傷がつきます。全力でサポートいたしましょう」

 落ち着いて微笑むディーマにレェラは安心する。

 レェラは商店を始めるにあたって、ある業者のサポートを受けた。レェラの担当がディーマであり、何度も助けられている。開業のために魔法使えるようにインプラントしたり、当面の魔法費用を借りたりしている。
 ディーマはレェラの店を見て、困った顔をした。

 露天商スタイルの店だ。遺跡の石畳の上に絨毯を敷き、その上に様々な商品が並べられている。綺麗にカットした紙片や陶片で値札を作り、少女の感性が光る可愛らしい装飾があちこちに工夫されている。そこまでは普通の店に見えた。
 だがディーマは満足しないようだ。

「なるほど、わかりました。確かにいいお店ですが……レェラ様のお店には……少し問題があるようです。一緒に改善していきましょう」

 レェラはそれを聞いて、商売の厳しさを感じ覚悟を決めたのだった。


◆2


 レェラは地味な娘だった。けれども、恋も夢も他の少女たちとは大きく異なっていた。どこにでもいそうで、どこにもいないレェラは大切な夢をひとつだけ抱えていた。それは、ダンジョンに生きる一員になること。いつからこの夢を抱いたのかは覚えていない。けれども理由はすぐに思い当たる。

 憧れがすぐそばにあった。レェラの実家の隣が酒場だった。酒場といえば、冒険者がたむろす場所だ。革鎧や鎖帷子を揺らす屈強な男たち。煌びやかな魔法服や怪しい魔女服を身に纏う魔法使いたち。最初は怖かったのを覚えている。だが、それはすぐに彼らの語る夢に塗りつぶされた。

 冒険者になりたい! 言葉には出さなかったものの、心の奥ではいつも叫んでいた。そして少女はひとより早く一人立ちし、どうしようかと街角に立った。壁はいくつもある。まず、冒険者になるには身体にシリンダーを埋め込まなくてはならない。魔法を使えなければダンジョンでは生きていけない。

 レェラのような少女が冒険者になること自体は普通のことだ。男性には男性の、女性には女性の強みがあり、それは年齢の若い老いにもある。ただ必要なのはお金だった。

(まず働いてお金を貯めてから……)

 そう現実と折り合いを付けようとした際、目に入った一枚の広告。

≪ダンジョンでショップを開いてみませんか? 未経験者でも開店できます!≫

(でもお金が……)

≪融資ご相談受け付けます。小規模の資産でも驚くほどのリターン!≫

(おおっ)

≪いまなら入会金無料! ご相談はお気軽に!≫

(ぐへへっ)

 街角で汚い笑顔を晒すレェラ。

 そういうわけで、レェラは全財産を投資してショップを開いたというわけだ。けれども、彼女の売り上げはいまだ赤字ラインであり、このままでは業者に払うローンを払えなくなる。話が違うと戸惑うこともあるが、それは自分の能力の至らなさだと反省する気持ちが強かった。

 それに、やはり夢を追う以上リスクは背負って当然だとも思っていた。

(店を開きたいなんて我儘通したのは私……でも、後悔はしていない。毎日が楽しいもの。頭を使わなくちゃ)
 一日に何度も帳簿を確認する。売り上げは減る一方である。

(なんとかしてみせる)

 そういうわけで、今回ディーマが訪ねてきてくれたのはベストタイミングな助け舟だった。先程まで駆け巡っていた数々の回想を終え、ディーマの顔を期待のこもった眼で見る。ディーマはしばらく思案した後言った。

「今回は先生をお呼びします」

「先生?」

 ディーマは優しい笑みを浮かべ、レェラの隣へ移動し囁く。

「そうです。ここだけの話……わが社にはこの道のエキスパートでいらっしゃいます、先生のアドバイスを受けることが可能なのです。的確な指示、改善、収益アップ! もちろん特別な先生でいらっしゃいますので、追加料金が……」

 レェラはしょうがなく追加料金を払った。今日の売り上げが無くなってしまったが仕方がない。そう思えるほどにはディーマを信頼していた。数時間後、革鎧を身に纏った体格のいい男がディーマと共にやってきた。彼が先生らしい。

「俺はクレンツ。この道のプロだ。よろしくなァ」


◆3


 ダンジョン内商店のプロと自称するその男、クレンツ。それにしては無精髭の粗野な男にしか見えないが、業界人というのはそういう物なのだろうかとレェラは思うことにした。クレンツは真剣な目で彼女の店を分析する。

「なるほどなァ、初心者が陥りやすいミスだ」

 遺跡の床に絨毯を敷き、商品を並べる露天商スタイル。レェラにはどこが悪いか分からなかったが、クレンツはにやりと笑って無精髭を撫でた。

「まず、パッと見でこの店には二つの弱点があるなァ」

「教えてください……弱点が何なのか」

 ごくりと息をのむレェラ。

「まずひとつ、この店のコンセプトが見当たらない。そしてもう一つは、目玉商品が無いということだ。一つずつ説明してやるよォ」

 クレンツは並べられた商品を一つずつチェックする。

「これは武器だ。これは防具。これは魔法の素材だなァ。これは消耗品……これは冒険道具だな」

「品揃えの良さは確かに重要だ。けれどもよォ、それならもっと品揃えのいい大きな店にみんな行くんじゃねぇか? この店じゃなくちゃダメだ、アレが必要だからこの店に行こう。そういう動機を引き起こすんだ。そのために君がこの店でお客に何を提供したいか考えろ」

「勉強になります!」

「これでコンセプトの重要性が分かったな? 次は目玉商品について……ただ、便利な店だけじゃァお客を呼び込むには弱い。目を引く、誰もが驚くような、この店にしかないサプライズを用意するんだ」

「サプライズですか……」

 クレンツの言う通り、どこでも手に入りそうな商品ばかりだ。

 しかし、レェラはいままで全力で店を頑張ってきた。そこから先は小手先の苦労などではどうしようもないものばかりだ。

「どうすればいいんでしょう……売れるコンセプトも分からないし、目玉商品なんて用意するつても……」

「三流ご意見番なら『自分で考えろ』だろうな」

 クレンツはにやりと笑った。

「それを教えるのが俺の仕事だヨ。まァ、安心しな。この店は雰囲気がいい。けれども、それを邪魔する商品が多い。そうだな……この店は街の雑貨屋だ。雑貨屋に武具防具類はいらないし、泥臭い冒険道具も似合わないナ。便利な消耗品や素材に的を絞るといい」

 レェラはすかさずメモをする。クレンツは細かく解説を続けた。

「武具防具類は命に直結する分高品質なものが求められる。こういう小さな店では買わないもんだ。そして冒険道具に必要なのも信頼性。まァ、こんな店では買わない。素材や消耗品なら安かろう悪かろうが通じる」

「次に目玉商品だが……安売りしても資本力の勝る店に客を奪われるのは必至なんだなァ。ここでしか買えない物は絶対に必要だ。そして、俺には思い当たる物がある……お前、魔法をケチって浅いところしか行ってないだろォ」

 確かにレェラはダンジョンの深層へ足を踏み入れたことはない。

「何をこの店先に並べるというの……?」

「早速取りに行こうぜ。目玉商品をよォ。でも、お前の戦力じゃァ、まァ、無理だな」

 それを言われると辛い。レェラは戦いができない。

「ここからが本当のビジネスだ。俺を今日だけ雇うんだ。一緒に行ってやるよ……追加料金でな!」



 ダンジョン儲かってますか?#2 かけがえのない商品



◆1


 深層に降り立つ。光源の呪文があちこちで白熱電球のように光る。その光を糧にする苔が天井や壁にびっしり。湿度は高く、あちこちから地下水が滲み出る。壁から魔力を濾過する晶虫、そしてキノコ。生命の気配が濃い。それは魔力の濃度が濃いことを意味していた。

「ぐへへ、いいムードです」

 クレンツとレェラは苔むした狭い通路を歩く。あちこちに部屋があり、そこでは何かが組み立てられていた。まるでマネキン人形のような無感情な白い人形。関節が曲がるようになっており、ぎこちなく手足を動かす。マネキンを作るのもまたマネキンであり、クレンツとレェラを無視して作業する。

「ここは……」

「こいつらはオートマタ。労働用の人形だ。そしてここは生産工場だヨ」

 クレンツが言うにはこのオートマタはダンジョンの保守を行っているという。命令が白紙ならこき使うことができるが、残念ながら彼らは言うことを聞かない。

「赤いオートマタを探せ」

 クレンツの指示通り、レェラは作業中のオートマタを眺めて赤いものを作製中でないか確認して回る。この生産工場に辿り着くまで、たくさんの難局をクレンツは救ってくれた。確かな信頼を感じ始めていた。クレンツは倒した化け物を捌き、内臓を油紙で包んでは「高く売れるぞ」と教えてくれた。

「ああっ、いました!」

 声を上げるレェラ。オートマタは無視している。すぐにクレンツがやってきた。レェラは見つけたのだ。組み立て終わったばかりの、赤い肌のオートマタを。

「こいつは不良品なんだ。だから命令が入っていない。つまり、いくらでも命令し放題だ」

「それってすごいじゃない。高く売れるってことじゃない!」

「ハハハ、目玉商品だなァ」

 そのとき、工場に現れたのは3人ほどの冒険者のグループ。作業途中のオートマタを投げ飛ばして素材を回収している。オートマタは表情を変えず黙って作業を続けていた。彼らはレェラたちに気付く。

「おっ、クレンツじゃねぇか」

「今度はこんな小さな女の子を騙しているのか?」

「てめェら、静かに、静かに!」

 様子がおかしい。クレンツは明らかに動揺しており、レェラを遠くに連れて行こうとする。レェラは僅かに不信感を抱く。

「どういうことです?」

 クレンツの代わりに冒険者たちが答えた。

「その赤い奴、不良品だぜ。命令は聞くが、すぐ壊れちまって何の役にも立たない。クレンツ、どうせ高値でこの子に売るとかなんとかしているだろうが、こんな詐欺まがいをやめて、真っ当な……」

 凍った笑顔でクレンツを見るレェラ。

 レェラの目に映ったのは、猛ダッシュで逃げていくクレンツの背中だった。

「もしかして、騙された……」

 追いかける気力もなく、呆然とその場にへたり込むレェラ。困った顔をした冒険者たちが、気まずそうにその場を去っていく。

 かび臭いような苔の匂いが彼女の涙腺を刺激し、ポロリと涙がこぼれた。この場に残されたのは物言わぬオートマタたちと、横たわる赤い肌のオートマタと……全てを失ったレェラだけだった。


◆2


 帰還の呪文によって深層から帰還したレェラに待っていたのは、はやり冷酷な事実だった。担当のスーツの女性ディーマとも音信不通になってしまい、レェラは途方に暮れてしまう。幸いなことに、詐欺被害の支援団体から融資を受けて借金を返済できたものの、傷は深かった。

 レェラは、それでも店を続けていた。クレンツに恨みはあるが、彼に教わったことを守り商品を選んで質を高めた。街の雑貨屋、といった風情の露店である。かゆいところに手が届く魔法素材や消耗品が並べられ、前よりは客が来るようになった。

(やっぱりクレンツは正しい)

 悔しいことに、売り上げがそれを証明している。それに、あの日から商売に関してさらに勉強するようになった。
 ショックは大きかったが、逆境の果てに残ったのは、野心だった。

(意地でもダンジョンにしがみついてやる。そのためには、本当の意味で頭を使わなくちゃいけなかったんだ)

 そして、以前のレェラはがむしゃらに努力することばかり考えて、自分の店先すら頭になかった。そして、それで得たお金は僅かだった。ひとりぼっちで考えていても仕方がない。それを教えてくれたのはディーマだった。

(いろんな人と相談しよう……彼ともね)

 そう思って隣の彼を見る。

「ありがとうね、今日の陳列、とっても素敵だよ」

「アリガトゴザイマス」

 赤い肌のオートマタ。生産工場から帰還する際、持ち帰ったのだ。彼は短い命で精いっぱい働いてくれた。彼が商品回収を手伝ってくれなかったら、店を再開することは不可能だっただろう。

「最後ニコンナ素敵ナ店デ働ケテ、ウレシイデス」

 最近はやたら湿っぽい言葉を言うようになった。感情が無いはずのオートマタなのに。自分でも寿命が近づいていることが分かるらしい。

「働くのが好きなの?」

 レェラは看板を設置し、苔むしたダンジョンで店を開く。

「ソレガ私達ノ生キル意味デスカラ」

「でも、あなたにはもう一つの意味があるよ。あなたは私の店の、最初の目玉商品なの。この店で、一番高価なものなの」

 オートマタは照れくさそうに自らの値札を見る。それは冒険者が到底買えるような値段ではない。

 実際、赤く目立つオートマタは店のシンボルとなっていた。オートマタは店先に座って、少しだけリラックスしたようだ。

「他ノおーとまたカラ、私ハ失敗作ダト、ごみダト言ワレテ、デモ仕事ダカラ仕方ナク作ルト言ワレマシタ。私ハ、最後ニ価値ヲ与エラレテ、ヨカッタ……」

 そのまま彼は動かなくなった。レェラはそんな彼をいつまでも大事にした。赤いオートマタが目印の雑貨屋は、前より少しだけ繁盛した。
 彼女の夢、冒険者になりたいという夢は、違った形で叶えられている。それこそが、レェラにとっての生きる意味だったのだろう。

 今日も雑貨屋の店先には、埃一つ被っていない人形が置かれている。それは誰にも買えないほど高く、いつまでも売れ残っていたが……店主は満足そうだった。


 ダンジョン儲かってますか?(了)










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