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 イミルアの心臓#1 遺失物の館


◆1

 灰土地域の北方には知る人ぞ知る観光名所があった。人類帝国に服属する都市国家で、その街は忘却の街と呼ばれる。
 交易路から外れ交通の便もなく、多くの観光客が来るような街ではない。だが、その街を訪れることを熱望するものは少なからずいた。その街には巨大な館があった。

 その館は遺失物の館と呼ばれ、増改築を繰り返した館の中に無数のがらくたが納められていることで有名だった。不思議なことに、その館を訪れた観光客は納められたがらくたの中に昔失くしてしまった大切なものを見つけるという。

 観光客はそのがらくたを自由に持ち帰っていいことになっている。それならばいつかがらくたが無くなってしまいそうなものだが、いくら観光客たちががらくたを持ち帰っても尽きることはなかった。
 毎年少ないながらも観光客が訪れ、それぞれ大切なものを取り戻していった。

 ちょうど冬に差し掛かる木枯らし吹く11月だった。観光客のフィルとレッドはコートを羽織り、忘却の街の大通りにいた。通りかかるひとの少ない、寂れた大通りに。
 固く扉の閉ざされた商店、営業しているのか分からない喫茶店。
「さすが穴場観光名所。いい感じに寂れているね」

 レッドは通行人の少ない商店街で呟いた。青いコートと緑のマフラーを着込むのはフィル、赤いコートと茶色のマフラーを身につけるのはレッドだ。フィルは背が高く、レッドより痩せているように見える。
 野良犬が餌を求めて右から左へ歩いて行った。

「普通は東の方からモスルートに行っちゃうひとが多いですから。わざわざ西からモスルートに入る僕らみたいなひとはこの街に用がなけりゃ来ないですよ」
 フィルは手を擦り合わせて寒そうにしている。商店街を突き抜けるように寒風が過ぎていき、風の音しか聞こえない。

 街は木造の家が多く、雪に耐えられるようにした角度の急な屋根が特徴的だった。小さな窓も冬支度が終わり、雪で割られないよう木の板で補強されている。
「観光名所だというのに屋台の一つも見えない……」
 レッドは残念そうに街を見渡している。開いている店すら見当たらない。

 二人はしばらく街を歩く。商店街の隅、ボロボロになった観光案内所を見つけた。入口が完全に板で封鎖されている。
「おいおい、年越し休業にはまだ早いぜ」
「奇妙ですね……いくらなんでも」
 ふと気付くと、陰から黙って手招きしている男が見える。暗いスーツを着て労働者風の佇まい。

「あのう、すみませ……」
 フィルが声をかけると、男は口に指をあて黙れのジェスチャーをして、やはり陰から手招きを続ける。
「事情ありそう」
 フィルとレッドは顔を見合わせ、男のもとへ行ってみることにした。男は二人を路地裏に誘い込み、小声で囁いた。

「おたくら観光客だろ、悪いことは言わない、今すぐこの街から出るんだ。俺は以前この観光案内所で働いてたもんだ。いまはかなり事情が違う……観光客狩りが行われているんだ。市長自らな。命が惜しけりゃさっさと逃げたほうがいいぜ」


◆2

「えっ、じゃあ遺失物の館は……」
「当然閉鎖されているぞ。近寄ることはお勧めできないし……何よりバリケードが築かれている」
「なんだって!」
 不意に第3者の声が聞こえた。振り向くと、路地裏の入口に青年が立っていた。痩せた犬が驚いて走り去る。

 旅人なのだろうか、青年はボロボロのマントを着ていて姿は少しみすぼらしい。頭には色あせた灰色のターバンを巻いている。
「そんな、嘘でしょう。僕は館に行くためにここまで来たのに……」
 青年は男に歩み寄る。その声は震えていた。

「悪いことは言わん、市長は本気なんだ。殺されちまうぞ……忠告はしたからな。じゃあな」
 男はそう言って路地裏の奥に消えていった。何が起こったかは分からないが、これは本当のことだろう。フィルは青年に声をかける。
「あなたも観光客なのですか? 参りましたね」
 青年は黙って頷いた。

 3人は挨拶を交わした。この青年はカラールという名で、遺失物の館を訪れるため長い旅をしてきたのだという。彼には大切な失くした物があったらしい。
「僕は諦めない……どんな手を使ってでも取り戻します」
 そう言ってカラールは去っていった。助けはいらないと言い残して。

「僕たちはどうしようかね」
「命をかけることも無いし、まぁ今回は残念だけど諦めようか」
「不発に終わるのも観光だね」
 フィルとレッドはとりあえず近くにある宿に泊まることにした。もうすぐ日没だ。ノープランで街をぶらつく。蝙蝠が素早く頭上を旋回した。

 商店街を抜け、大通りへ。二人は近くに小さな宿を見つけた。異様なほど活気が無い。観光客が来ないのだから当然だろう。
「あのう、すみませーん」
 誰もいないフロントでレッドは声を上げる。返事は無い。代わりにネズミが天井裏で走る足音が聞こえた。

「潰れちゃったのかな」
「客いないもんね……」
 彼らが真っ暗なフロントで宿の従業員が来るのを待っていると、ズシンズシンと大きな音がした。
「熊でもあばれているんででしょうか……ん?」
 フィルは宿の天井にある何かに気付く。

「レッド、見てください、あの天井」
 天井の板の隙間に、節穴のようなものが一つ開いていた。レッドがそれをよく見てみると……レンズのようなものが覗いていることがわかる。
「何かのセンサーかな? なんでこんなところに」

「客が来るのを監視しているんでしょうか。でも従業員が来ないってことは……」
 地響きはだんだん大きくなっていき、何かが宿の入口に大きな影を作る。フィルとレッドはゆっくりと振り返った。
「ようこそ観光客の皆さま……市長です。地獄へのチェックインがまだのようですな!」

 宿の外には蒸気を噴き出す機械の巨人が立っていた。巨人は真鍮の部品がむき出しになっていて首は無く、首の代わりに鳥籠のようなものがあった。鳥籠の中でレバーを操作しているのは、黒ひげにスーツの男だ。
「随分と大きな……従業員さんだこと」
 レッドは見上げて、そうつぶやいた。


◆3

 彼が市長だというのか。纏うスーツは確かに高級そうだ。宿の玄関を塞ぐ巨体。フィフィフィと機械の駆動音。
「あのー、僕たち帰ろうと思ってるんですけど」
「超特急で送ってやるよ、魂の帰る場所にな」
 市長がレバーを勢いよく引く。すると、巨人は唸りを上げて両手を振り上げた!

 両手を振り下ろす! 大きな音を立てて入り口が粉砕され、2階建の宿は崩れる。巨体から蒸気が噴き出し、辺りを白い霧で包んだ。
 市長は巨人の足元を見下ろす。そこに滑り込んで難を逃れた二人と目が合った。
「超特急の切符持ってないんでゆっくり時間をかけて徒歩で行きます!」

 市長はレバーを引き足で踏みつぶそうとする!
「忘れ物を取りに来たんだろう。させんからな!」
 フィルとレッドは足を潜り抜け脱出し、通りを駆ける。
「手荒い歓迎です。大人気ですね」
「スターになったみたい♪」
 真っすぐ逃げると、ガイドブックで見た景色があった。

 遺失物の館は大通りの突当たりにあった。増改築を繰り返したつぎはぎの巨大な建築物。アンシンメトリーのシルエットは枯れ木のようだ。たしかに鉄条網と鉄板のバリケードが築かれ完全に封鎖されている。
「ありゃ、行き止まりか」
 ズシズシと背後から巨人の足音が聞こえた。

「終点ですよ、お客様。お忘れ物無きよう……」
 フィルとレッドはバリケードの前に追い詰められた。目の前を塞ぐ機械仕掛けの巨人。沈む太陽。籠の中で市長が狂ったような笑みを見せる。
 レッドは牙をむいて笑い返した。
「生憎俺らの旅は乗り継ぎ先が待ってるんだ」

 市長は再びレバーを勢いよく引く! 巨人は両手を振り上げ、今度こそ二人を巨大な腕で押しつぶすかに見えた。
 一瞬の隙をついて、フィルは緑のマフラーを解き投げつける! 同時にレッドは高くジャンプし舞い上がる!
 蝶の様に華麗な動きに市長は目を剥いた。
「何ッ!!」

「それ、いただきますよ!」
 フィルの投げた緑のマフラーは鳥籠の隙間から操縦室に入りレバーに絡みつく! そしてそのままそれを引いた! 両手を振り上げたまま誤作動で足をじたばたさせバランスを崩す巨人。
「おりゃっ」
 飛び上がったレッドが鳥籠の上に足を振り下ろす!

 激しい衝突音! フィルは緑のマフラーを手に戻しその場を離れる。巨人はそのまま倒れ、大きな音を立ててバリケードを崩壊させた。
 轟音の後にやってきたのは静寂だった。市長は落下の衝撃で気絶しているようだ。巨人は完全に壊れており、蒸気があちこちから噴出している。

 レッドはひしゃげた鳥籠の上に涼しい顔で立つ。
「おーい、フィル。大丈夫か?」
「無茶しましたね」
 フィルは離れた所から駆け寄った。緑のマフラーは再び首に巻かれている。破壊されたバリケード。これなら通れそうだ。日は沈み、完全に夜になっていた。
「派手にやったな」

「邪魔されると本気になるタチでね。フィルもそうだろう」
「まあね」
 巨人の残骸を飛び越え、二人は館の敷地内に入る。
「せっかく道が開かれたしな、観光を始めようか」
 館は、暗い闇の中静かに久しぶりの客を歓迎しているようだった。



 イミルアの心臓#2 少女の願い


◆1

 遺失物の館は赤褐色のレンガが白い漆喰で固められた古い様式の建物である。ただ、それは増改築で見るも無残に歪められていた。
 玄関の扉は開いている。
「館は歓迎していますね」
 中は月明かりも届かないのでフィルは光源を浮遊させる。光源……光が宙に浮かび辺りを照らした。

 光源は広く普及する照明魔法で、初歩的な魔法の心得があれば簡単にガス灯とは比べ物にならないほど明るい光をもたらす。
 空中に浮遊した光球は術者の意識に従って追従する。デメリットは魔法の購入費くらいだ。
 二人は館の中の時が止まったような静寂に息をのむ。

 中は確かに無数のがらくたで埋め尽くされていた。それは進路を塞がずに積み上がっている。通路の先は魔力の闇に沈んでいた。
「誰かが並べているのかな」
 疑問に答えは無かった。がらくたは埃まみれで、あちこち蜘蛛の巣が張っている。豪華なシャンデリアもいまは光を灯すことは無い。

「市長はなんであんなに観光客が憎いんでしょうか」
「観光客に持ち帰ってほしくない忘れ物があるとか……?」
「なるほど、それを観光するまで帰れないですね」
 広い館の中に二人の靴の音だけが響く。まだ見ぬ、市長が妄執するほどの価値のある忘れ物に思いを馳せる。

 目に映るがらくたにそれほどの価値があるとは思えなかった。どれも日用品や玩具などのありふれたものばかりだ。しかしそれも、失くしたひとにとっては大切なものなのだろう。がらくたに踏まないよう歩く。
「ここに俺達の失くした物もあるのかな」
「あるかもしれませんね……おや?」

 フィルは立ち止まって耳を澄ます。二人以外の誰かの足音が聞こえる。
「レッド、誰かいる。念のため隠れよう」
 二人は光源をコートの下に隠し、がらくたの陰に身を寄せた。遠くに別の光源がちらつくのが見える。遠くながらも光源の主ははっきりとわかった。

 ボロボロのマントに色あせたターバン、カラールだ。
「こっそり忍びこんでいたのか」
 追いかけようとするが、何故かどんどん遠くなっていく。声をかけても届いている様子は無い。二人は走ってみるが距離は縮まらないどころか広がっていく。
「なんだ変だぞ。空間がおかしい」

 とうとうカラールを見失ってしまった。
「おい、この館ってこんなに広かったっけ」
 二人は巨大な立体迷路になった周囲を見渡す。あちこちにがらくたが積み重なり、小さな光源だけでは照らしきれない巨大な闇が広がっていた。
「増改築しすぎとはいえ……」

 フィルは立ち止まって、頭をかいた。
「空間がねじ曲がっていますね。この館自体が巨大な魔法陣なんでしょうから、ありえますよ」
 魔法陣……魔法使いが自分の好きなルールを適用できる空間。「無くしたものが見つかる」というルールはもちろん、いくらでも好きな現象を起こせる。

 そのとき二人の前に人形が現れる。それは子供くらいのサイズの大きな人形で、顔には笑顔が描かれている。その手には包丁。人形はゆっくりと歩み寄ってくる……。
「あ、どうもこんにちは」
 挨拶するレッドに向かって、包丁が鋭く彼の心臓を狙う!


◆2

 レッドは柳の様に包丁をゆらゆら避けながら逃げる、逃げる!
「おいフィル、心霊現象だ! どうなってんだ!」
 ところがフィルにもがらくたの群れがにじり寄っていた。フィルに飛び掛かる無数のがらくた!
「どうもこうも、観光スポットは心霊スポットだったのでしょうか」

 人形の手から包丁を落とすべくレッドは手刀を繰り出す。だが、人形は綿が詰まっており、ふにゃりと折れ曲がるばかりだ。そもそも包丁は磁石の様に手に貼りついている。取り落とすということは無かった。
「人間を捌いちゃいけないって学校で習わなかったのかよ!」

「こら、僕はゴミじゃないです」
 フィルは飛びかかる掃除機に行く手を阻まれレッドに加勢できない。掃除機はブルンブルンとホースを振り回し、さながらフレイルのようだ。フィルは緑のマフラーを解き、鞭のように操って掃除機の攻撃を凌ぐ。

「どうしたんですこれは。まるでポルターガイストじゃないですか」
 フィルは緑のマフラーを掃除機に絡ませると、逆に掃除機を振り回した! 掃除機はぐるぐると振り回された後闇の向こうへ放り投げられる。
「ごめん、誰かの大切な掃除機!」

 次なるがらくたがフィルを襲う。タンスがズシンズシンを歩きながら間を塞ごうとする! これではマフラーで対応できない。二人は延々邪魔をしてくるがらくたに次第に体力を消耗していった。
 館を埋め尽くすがらくた全てが敵だ。
「なるほど、湖の水を飲み干すような労力ですね」

 四方八方から家具や道具が飛びかかり、人形たちは歩いて二人を包囲する。周囲のがらくたが二人に牙をむき逃げることしか出来ない。反撃して殴ったりしてみたものの、効いている様子は無かった。
「どうすんだ、このままじゃ……」
 レッドが珍しく弱音を吐く。

 そのとき、甲高いホイッスルの鳴る音が聞こえた。がらくたたちは一瞬動きを止める。その隙に二人は包囲を突破することが出来た。
「こっちだよ! はやく、逃げて!」
 ホイッスルを持ち物陰から手招きする人物が一人。彼女の下へ二人は走る。追いかけるがらくた!

「助かる!」
 フィルとレッドはその人物……一人の女性に導かれ館の中を走る。やがて凶暴ながらくたの群れは3人を見失ったのか、追いかけてくることは無かった。
 がらくたが一つもない入り組んだ通路の陰で立ち止まる3人。
「危なかったね。私はシンクアイ。謎の少女ってわけ」

 ひらひらの服にレギンスを穿いた大人の女だった。歳の割には服装が幼い。長い髪は後ろで結んでいる。フィルとレッドは彼女に自己紹介と挨拶をした。
「少女……」
「うるさい」
 シンクアイは神妙な顔で告げる。
「やられていたら忘れ物たちのしもべになっていたね」

 シンクアイは二人に話し続ける。
「観光客が途絶えてからというもの、忘れ物たちは自分を迎えに来るひとが来なくて気が立っているの。ああして実力行使に出て犠牲者に取り憑いて脱出しようとしてる。怒りは収まったと思うけど……気をつけてね。もう、全部あいつのせい!」


◆3

「……すべては市長の妄執から始まったの」
 シンクアイは通路を歩きながら、これまでのいきさつを話した。市長に就任の後、彼は記念に自分の忘れ物を探しにこの館を訪れたという。そこで、どうしても手に入れたいある忘れ物を見つけたというのだ。しかしそれは市長の忘れ物ではなかった。

「自分の忘れ物以外持ち帰ってはいけない、それがルール……」
 その忘れ物は市長を拒絶した。魔法陣はねじ曲がり、市長は館の外へ弾き飛ばされてしまった。
 市長は誰かによってその忘れ物が持ち去られるのを恐れた。そして、館は閉鎖され観光客は殺されるようになったというのだ。

「その凄い忘れ物というのは……」
「イミルア……という名の女性」
「人間の忘れ物まであるのか……」
「なるほど、さぞかし美人なのですね」
 シンクアイはそれを聞くと思いつめた表情で俯いた。館のなかは真っ暗で、フィルは光源を使用して辺りを照らす。

 シンクアイの険しい表情が光に照らされる。
「増えすぎた忘れ物たちはいずれ許容量を超え、暴走し館を飛びだすでしょう。魔法陣のルールは壊れ始めています。幾度となく市長を拒絶しましたが、次も成功するかは分かりません。お願いです、その前にイミルアを……ここから解放してください!」

「そういえば君も忘れ物を取りに来たのかい? 随分ここに詳しいみたいだけれど」
「私は……」
 そのときフィルは「静かに」のジェスチャーをして会話を遮った。何か機械の駆動音のような音が聞こえる。
 通路の奥を見た。濃い魔力の霧が通路を闇に閉ざしている。

 ミシッ……ミシッ……と館の床板を重い物が踏む音が聞こえる。フィルとレッドはその場に立ち止まって迎え撃つ。
 やがて巨大な鎧が闇の中から姿を現した。滑らかな群青に光る装甲、関節で稼働するガスモーター。フィルとレッドはこの鎧に見覚えがある。モスルート製の戦闘機動鎧だ。

「あの女性……イミルアと言うのか。素晴らしい名だ」
 鎧の隙間から市長の声が聞こえる。その声は歯ぎしりが聞こえそうなほど震えていた。意識が戻って出直してきたのだろう。
 シンクアイは市長をきっと睨む。

「他人の思い……他人の記憶を踏みにじることなど許されません。あなたにはきっとイミルアは微笑まないでしょう。もう、やめてください!」
 シンクアイは市長に訴える。市長の表情は窺い知れないが、そんな言葉で考え直すようなら観光客狩りなどしないだろう。

 通路の天井を擦りそうな巨体が、立ち止まった。
「そんなことは分かっている……だが、私にはもうどうすることもできないのだ。私自身が破滅するまで、私はイミルアの形を追い求めてしまう。だから……」
 ぎしり、と固く拳の握られた腕を掲げる。

「渡さん……渡せないのだよ!」
 鎧の腕から1対の刃が伸びる! それは魔法の力を受けて淡く緑に輝いていた。



 イミルアの心臓#3 抜け落ちた心臓


◆1

「とりあえず、握手は勘弁かな!」
 3人は一目散に逃げだす。市長はガシャガシャと音を立てて追う! 再びがらくただらけの区画に戻っが、怒りは静まったようで、がらくたが襲ってくる気配はない。
「こっちだよ!」
 シンクアイが素早く先導する。

 だが、それも長くは続かなかった。がらくたが辺りを取り囲む小さい部屋にフィルとレッド、シンクアイは追い詰められる。
「やれやれ、お見合いかよ」
 立ちはだかる市長。
「ご趣味は何ですか? 切り刻まれるのはお好きですか?」

 市長は鎧から飛びだした2本の刃を掲げながらゆっくりと近寄る。刃は魔法で淡く緑に光っている。
 フィルのマフラーもあの刃の前では容易く切り裂かれてしまうだろう。そのときシンクアイが二人の間を割って前に出てくる! 
「わたしが相手だ!」
 しかしシンクアイは丸腰なのだ。

「おい、危ないぞ!」
「大丈夫、ちょっとはすばしっこいから」
 そう言ってシンクアイは振り向き、ウィンクをした。市長はもはやすぐそこまで来ている。シンクアイは一瞬の隙を縫って足元に飛び込む! 
「勇気だけはあるようだなッ」
 市長は刃を恐ろしい速度で振り下ろす!

 シンクアイは猫のように刃を避け、背後に回り込んだ。刃の先はがらくたを切り裂いただけだった。悲鳴のような音が響く。
「な、なんだこの声は」
「がらくたは未練の塊よ。大切にされながらも主人の元を離れたがらくたたち、それをあなたは切り裂いたのよ」

 再びがらくたに怒りが満ちていくのが分かる。市長はそれさえも気づかずに、刃を振り回す。
「こんなもの、ゴミでしかない! イミルアだけが価値のある物だ!」
「わたしはそうは思わない。イミルアもがらくたの一つだよ。ここにあるがらくたと、何一つ違わない」

 虹色の糸ががらくたの切り口から噴き出す! 
「がらくたの怒りを思い知りなさい!」
 シンクアイは市長を後ろから羽交い締めにして動きを止めようとする。がらくたたちは次々と目覚め、虹色の糸を纏い四方から襲いかかる! 人形、コップ、瓶、本が!

「何故だ、モーターが動かない……やめろ、近寄るな!」
 女性一人などたやすくねじ伏せるはずのガスモーターが、そのときは虹色の糸に絡めとられ機能しない。
「シンクアイさん!」
 フィルは彼女に逃げるように促す。だが、彼女は首を横に振った。
「イミルアを……頼みます」

 市長はぎこちなく刃を振り回し糸を切り裂こうとする。だがその刃にも虹色の糸は絡みつき、やがて動かなくなった。市長と、それを押しとどめたシンクアイの上に大量のがらくたが虹色の糸を絡ませながら覆いかぶさっていく。
 フィルとレッドは見ていることしかできない。

 そして、後に残ったのはがらくたの山だった。虹色の糸は光を失い蜘蛛の糸に変化していた。レッドは掘り起こしてみようとするが、糸の密度が高く動かすことは出来なかった。まるで何かの巨大な繭だ。
「しょうがない、イミルアを探そう」
 そう言って、二人は小部屋を後にした……。


◆2

 市長は闇の中でもがく。
「何故だ……何故、イミルアは私に巡り合わなかった。私は彼女に巡り合えたのに、何故二人は交わらなかったんだ……」
 鎧の脱出機構を作動させると、彼の身体は闇の中へと放り投げられ、そのまま奈落へと落下していった。

『それがルールだ』
 誰かの声。市長は怒りで充血した目を奈落の底へと向ける。そこにはぼんやりとした光があった。
「何がルールだ」
『わたしの決めたルールだ』
 市長はジャケットを脱ぎ捨て、拳を振りかざす。
「ルールが何だというのだ」

 固く握りしめた拳が震える。
「お前が勝手に決めたルールだろう、それは! 私は……街の誰から軽蔑されても構わない。私は……俺は! イミルアに唾を吐きかけられても構わんのだ! 俺自身がイミルアに相応しい男になればいいだけであろう! くだらないルールでどうして俺を縛る!」

『やめろ……その感情は強すぎる……』
「女のことを忘れ去った男が、今更取り戻しに来て何なんだ! その何十倍も俺はイミルアのことを思っていたよ! 館をギルドに売り払い、解体する商談も進んでいる! 失った観光収入を取り戻せる、だから――」
『や、やめ……』

――


 フィルとレッドは地下へと潜っていった。いくつもの扉をくぐり、分かれ道を過ぎる。
 進む方向は完全にカンに頼っていたが、何か導かれるようなものを感じる。フィルとレッドは闇の中螺旋階段を延々と降りていった。やがて二人は壁や床がセラミックプレートで覆われた部屋へと辿りつく。

 無数のシャワーノズルやバルブが壁に設置されている。どうやらお風呂場のようだ。空の湯船が朽ちて転がっていた。魔力の霧がたちこめ、それは魔法陣特有の流動性をもって渦巻いている。
 レッドは薄暗い部屋の奥に人が立っているのに気付き、どきりと立ち止まった。

 酷く冷たい部屋。その部屋の奥に立っていたのはカラールだった。湯船の一つを見つめたままじっとしている。
「お隣、よろしいですか?」
 フィルはカラールに声をかけた。するとカラールはゆっくり振り返って微笑む。
「やぁ、君たちも来ていたのか」

 フィルとレッドはカラールに近づく。
「忘れ物、見つかったかい?」
「半分はね」
 カラールの目の前にある湯船……はたしてその中には、一人の美少女がその身を横たえていた。ボロ切れのドレスを身に纏い、手を組んで死んだように眠っている。
 突然裸電球がチカチカと明滅した。

「このひとがイミルアかい?」
 フィルはカラールに問うてみた。カラールは黙ってゆっくりと頷く。そしてイミルアの胸を指差した。指差した先、彼女の胸はパズルのピースが抜け落ちたように四角くパーツが抜け落ちていた。血は流れておらず、断面は暗黒が渦巻いている。

「彼女には心臓が無いんだ」
 そう言って肩をすくめた。カラールはイミルアを探してこの館へと来たという。しかし、心臓が無くては意味が無い。そうどこかもの哀しい顔で言った。イミルアの顔は蝋人形のように生気が無かった。
「心臓が無いから、彼女を持って帰れない」


◆3

「カラール、そう言わずに持って帰ってくれよ。いま大変なことになってるんだ」
 レッドはカラールに市長の暴走を告げた。
「魔法使いの館から姫を救い出して一件落着にはならないのかい」
 しかしカラールは口をきゅっと結んだだけだった。頭を振りイミルアに背を向ける。

「僕はイミルアの人形が欲しいんじゃない。イミルアの心が欲しいんだ。この館のどこかにあるはずだ。僕の失くしもの……」
 そして彼はイミルアのことについて教えてくれた。静かなバスルームにカラールの声が淡々と響く。フィルとレッドはそれを聞いていた。

 イミルアとカラールは同じ街に生まれ、幼い時を共に過ごし、将来を誓い合った仲だった。しかしイミルアの美しさに惹かれた男たちが幾人も彼女につきまとう。イミルアはそれが嫌で、いつも悩んでいた……。
「僕はそのときはあんなことになるなんて思ってもいなかった」

「イミルアはある日の夕暮れ、突然姿を消してしまったんだ」
 カラールはその時の様子を詳細に語ってくれた。

 夕暮れの中、街を見下ろす丘の上でイミルアはカラールと歩いていた。丘の上からは、赤煉瓦の街並みとそこらじゅうに開いた坑道の縦穴を見渡せる。

「ねぇ、カラール。二人だけでどこか遠くへ行きたいね」
「うん」
 幼い二人はそんな夢をいつも語り合っていた。暗くなってきた夕暮れの公園、ガス灯に火を灯して去っていく人。家へ帰っていく子供。蝙蝠が暗い夕空を切り裂くように飛ぶ。

「でも最近誰かが囁くんだ。遠くにいけるのは一人だけだって。静かで安らげる場所には、私しか行けないって」
「どういうこと?」
 イミルアは一人駆けだして、街灯から外れ少し暗くなったところで立ち止まった。追いかけようとしたカラールを彼女は制止する。

「みんな私を忘れた方がいいの。そのほうが……みんな幸せに暮らせるから」
 彼女はカラールに背を向け、夕暮れのさらに深い闇を見つめながら言う。
「嫌だよ。そんなの。僕は忘れないよ」
 イミルアは振り返って、笑ったような気がした。それは夕闇に包まれ良く見えなかった。

「皆が私を忘れてくれる場所、そこが私を呼んでいるの……」
 そう言ってイミルアは夕闇に向かって走り出した。カラールは急いで追いかけるが……いくら探しても彼女を見つけることは出来なかった。
「僕は探し続けた。何年もたってやっと、忘れ物が集まるこの館のことを知った」

 そのとき、バスルームへ下りる階段からがらくたが転がり落ちてきた。陶器の人形だ。カラカラとセラミックプレートの床を転がっていく。フィルとレッドは身構えた。ズムズムと何かが這いずる音が聞こえる。
「イミルア……オオ……イミルア……」

 がらくたが入口から溢れかえる! 中心にいるのは鎧を身に纏った……市長だ。鎧は完全にがらくたの群れと同化している。執念ががらくたを取り込んだというのか。
「こいつは……ヤバいぜ」
 市長はすでに正常な思考を持っていないのか、獣のような叫び声を上げ足を踏み出した。


 イミルアの心臓#4 忘れ物は見つかりましたか?


◆1

 市長はゆっくりとこちらに歩いてくる。その鎧の隙間からは赤く錆びた砂が零れおちて血痕のように地面に赤い花を咲かせていた。シンクアイの半身が覗くが、意識は無いようだ。
「イルミア……オオ……イルミア」
 彼の現れた入口からは次々とがらくたが現れ鎧の塊に取り込まれていく。

 錆びたミシン、陶器の人形、本や機械……様々ながらくたが狭い入り口を押し開けるようにあふれ出しては市長の鎧に纏わりついていく。まるで別の生き物のように脈動し、セラミックタイルの床に触れてガチャガチャと騒がしい音を立てた。

「市長、どうしたんだいったい、あんたは……」
「ルールを……ルールを変えよ……オオオ」
 まるで巨人だ。巨大な腕を振りかざす市長。
「トマトは潰れるのが……ルール……オオオ」
 力任せに床にたたきつけ、風呂場のセラミックタイルがはじけ飛ぶ。

「オオオオオ……オオオ……」
 市長は感情の塊となっていた。イミルアを渇望する意思だけが彼を突き動かしているようだ。しかし、がらくたが手足に纏わりついて足を引きずるようにしか進めない。
「心臓のありか……予想ですが。忘れ物は見つけてほしいがために行動する……ならば!」

「分かってきましたよ。虚像が何故生まれたか。イミルアさんは見つけてほしかった。だから当時の姿を残した!」
 フィルは青いコートを脱ぐと、それを浴槽に静かに横たわるイルミアに被せる。
「手品を一つ。あなたの妄執を消してごらんにいれましょう」
 そしてコートを取り払う!

 カラールは目を疑った。水の無い湯船からイミルアの姿が跡形も無く消えていたのだから。
 狂ったように咆哮する市長。その身からはまるで血しぶきのように赤く錆びた砂が噴き出す!
「あんな虚像無くたって、カラールさんは大丈夫ですよ」
 そのときカラールは何かに気付く。

「イミルア……?」
「ははっ、気づくのが遅いぜ」
 レッドはにやりと笑って突進をする。出遅れまいとカラールも駆けだす。レッドのアドバイス。
「魔法陣を支配するのは感情だ! 一瞬も迷うなよ!」
「ごめん……失格だよ。忘れないなんて言ってさ、こんな近くにいたのに!」

 猫の様に飛び掛かったレッドは市長の注意を引き付ける! その隙にカラールは市長の懐に突っ込み、シンクアイを掻き出した。彼女は赤い砂まみれで着ている服もぼろぼろだった。目をつむったまま動かない。
「イミルアはこんな女ではない……」
 呻く市長。

「魔法陣を支配したのに……どうして思い通りにならない。どうして……オオオ」
 市長は錆の涙をこぼす。
「お前らは卑怯だ……何でも思い通りにする……俺とお前……何が違う」
「僕らは観光客だからさ、見るだけなら自由なんだよ」
「姿が消えただけで感情が揺れた市長さんの負けです」

 カラールはシンクアイを抱き寄せ、狂ったように腕を振る市長から離れた。
「僕にはわかる……君は僕の失くしたものだって」
 彼は優しくシンクアイの顔についた錆をぬぐった。優しく……とても優しく。


◆2

「オオオ……俺は何一つ、手に入れられない!」
 市長の虚像はがらくたたちを身に纏い、セラミックプレートの壁を粉砕して外へ駆けだしていく。かなり地下深く潜っていたはずなのに、壁の向こうは地上の庭だった。穴から見える街並みを照らす、朝の眩しい光。小鳥のさえずる音。

 シンクアイは赤い砂まみれで気を失っていたが、カラールが語りかけるとゆっくりと目を開けた。
「朝だよ、おはよう」
「カラール……こんなところまで、追いかけてきたんだね」
 その顔はどこかイミルアの虚像に似ていた。

 彼女は幼いころの美貌を捨て、大人の女性に成長していたのだ。
「わたしは……この埃と蜘蛛の巣だらけの館で眠るうちに美しさを失ってしまった」
「何も失ってはいないよ」
「あなたはきっとわたしを忘れて……」
 そう消えそうな声で言うシンクアイの手をカラールは強く握る。

「過去を手にいれたいんじゃない、僕は君と歩く未来を手にいれたいんだ」
 カラールはそう言ってシンクアイの目を見つめた。
「昔のことなんか忘れよう。その方が、君は美しい」
 無数のがらくたが館の外にいた。まるで結婚式の催しの様に道を作る。
「やや、恥ずかしいな」

 レッドは照れながら、フィルに向かって囁いた。
「一件落着かな」
「ああ。今日もいい観光が出来たな」
 そして二人は笑い合った。それを見たカラール達は逆に恥ずかしくなったようだ。顔が真っ赤だ。二人はがらくたに祝福されながら街へ向かって歩き出す。

 フィルは市長が走っていった後に残された落し物をひとつ見つけた。それは付箋がたくさん貼ってあるよれよれのくたびれた観光ガイドブックだった。手帳サイズで携帯しやすい。
「おや、これは……」
 そう呟いてレッドをちらり。レッドはがらくたたちに胴上げされていた。

 胴上げされながらレッドは言う。
「市長さんどこまで行っちゃったんだろうなー」
「自分が今まで溜めこませた忘れ物をそれぞれ皆に届けるまで走り続けるんじゃないです?」
 フィルは観光ガイドブックをぺらぺらとめくる。そしてにやりと笑った。レッドがガイドブックに気付く。

「あ、それ!」
「さ、街のみんなが気付く前に脱出しましょう!」
 レッドは胴上げの途中、空中で身をひねり、フィルの隣に着地! 二人は急いで館を脱出する。残った痕跡は市長の機械巨人の残骸だけだ。蒸気はいまだに噴出している。
「フィル、見るだけって言ったじゃん!」

「これ、僕たちの忘れ物じゃないですか?」
「なんでだよ」
「レッドの名前が書いてあります」
 そう言ってガイドブックの裏表紙を見せる。そこにはでかでかとレッドの名前。
「あっ、それは俺の子供の頃の……」
「他にもたくさん落書きがありますよ〜」

「恥ずかしい! 俺の忘れ物じゃん!」
「あっはは、この落書き面白いですね〜」
 猛スピードで走り去るフィルを、猛追するレッド。

 街は昇る朝日に照らされ洗濯をしたように輝いていた。


  イミルアの心臓 エピローグ


 昼下がり、忘却の街のカフェテリアでフィルとレッドは紅茶を飲む。市長が消え、街は騒がしくなっていた。痩せた犬が狂ったように吠えているが、それすらも喧騒に消える。人々の顔は晴れ渡り笑顔が溢れていた。フィルはくたびれたガイドブックをめくってはニヤニヤと笑っている。

 商店街には街を飾りつける店員。埃を被った屋台を引っ張りだすおじさん。暖かい日差しは冬の寒風を和らげていた。
「この街もすぐ観光客が訪れるようになるんだろうなぁ」
「喜ばしいことですね」
 フィルの生返事。レッドはガイドブックを読んでばかりの彼を見るが視線が合わない。

 レッドはガイドブックを取り上げ、フィルを睨んでいった。
「もう次の観光を考えてるのか、この街だってまだまだだぜ」
「あはは、ごめんよ」
 フィルは笑って紅茶を飲んだ。注文していた焼き立てのコヌミク・クッキーがやってくる。早速頂くレッド。香ばしいコヌミクの香り。

「しかし次の観光地は凄いとこですよ。赤の付箋のページ」
 フィルはガイドブックを指差す。言われてレッドは目を通す。
「モスルートの黒い聖櫃か……そんなの……ん!? えっ、マジかよ」
 フィルはその反応を楽しんでいるようだ。
「でしょ? 見たくなったでしょ?」

「こうしちゃいられない、フィル、さっさと行くぞ!」
「まぁ、ゆっくり行きましょう。レッドも言うように、まだまだこの街にも見どころがありますし」
 フィルは後になって思う。この遺失物の館は決して過去を取り戻すだけのものではない。

 失われたものを取り戻すことで、そのひとに新しい一歩を歩ませる……そんな力に満ちている物だと。過去から未来までを見通しているような……そんな館。

「ゆっくり……旅を続けていこうじゃないですか」


 イミルアの心臓 (了)




【用語解説】 【人類帝国の版図】
人類帝国に皇帝は存在しないが、無数の小国や都市国家を支配する権力を持っていることから帝国を名乗る。これは旧エシエドール帝国が成し遂げた支配体制をそのまま受け継いだもの。実質的な本土は超巨大都市「帝都」のみであり、植民地を抱える大英帝国のイメージに近い

【用語解説】 【センサー】
探知の呪文は術者から遠く離れると効果を失うが、電線やレンズなどによってその知覚範囲を延長させることが可能である。これは望遠鏡によって遠くを見れることと似ている。センサーのみで効果を発揮することはできず、魔法を使う術者かエンジン設備が不可欠である

【用語解説】 【鉄条網】
棘のある鉄線。重飛来物防護の呪文によって大砲で陣地を破壊するのが困難となる戦争の中、呪文の抜け道である徒歩での侵入を止めるために多用される。敵兵も飛来物防護の呪文で銃弾を防ぎ鉄条網を処理しようとするが、防御側はそれを超える銃弾の雨を用意できるのである

【用語解説】 【煉瓦】
灰土地域で煉瓦を大量生産するうえで障壁となったのが、焼成のための燃料の不足である。魔法で熱を与える方法や、石油スライムの飼育、赤皮獣のフンを燃やすなどによって苦労して作っていたが、最終的には採掘設備の発展によりガスを燃やして焼成するようになった

【用語解説】 【掃除機】
吸引の呪文がセットされた小型エンジンを持つ清掃機械。呪文は安い方だが、やはり掃除ごとに消耗するので高価な機械である。魔女の一派には掃除機の吸引の呪文を利用して魔力を集め、一時的にブーストさせる流派もある。高い魔力が必要とされる飛行の呪文を行使する流派である

【用語解説】 【戦闘機動鎧】
モスルートが開発した輸出用の量産パワードスーツである。身長2.5メートルの巨体で、250個のシリンダーが埋め込まれ大量の魔法をマウントできる。関節を動かすのはガス圧モーターで、ガスの循環も魔法が行う。都市国家の支配者層の魔法使いに飛ぶように売れたという

【用語解説】 【握手】
友好の印。基本的に片手で握り合うのが通例だが、種族ごとに変わった握手を持つ者もいる。ハーピィの場合、地面を歩く足で握手をするのは失礼とされる。握手の代わりに、翼を広げて舞を踊るのがハーピィ流の握手なのだ。部族ごとに踊りに特色があり、文化として継承される

【用語解説】 【魔力の霧】
魔力ガスが充満している空間に、液体に相転移した魔力の粒が浮遊している状態のことを指す。魔力の濃いダンジョン等で見ることができる。しかしいくら魔力の密度が濃くなっても、人体に吸収されて代謝するためには感情が不可欠なので、利用し放題というわけではない

【用語解説】 【ガス灯に明かりをつけるひと】
街灯のガス灯は点灯員が各街灯を巡り一つずつ火を灯していく。早朝、同じように点灯員が火を消していく。ヴォイドジェネレーターによる電力の安定供給が実現し帝都の街灯は電灯に変わったが、発電所を持たない地方では引き続きガス灯が用いられた


【用語解説】 【浴槽】
灰土地域の都市国家の多くは、大陸を南東から北西に向かって横断する巨大な大河、聖河に沿って点在する。これは聖河の水資源と氾濫による農地の肥沃化が理由である。川沿いの都市国家は水道橋を建設して豊富な水資源を利用し、湯船にお湯を並々とはって風呂を楽しんでいた

【用語解説】 【市長】
都市国家の首長の中で、小規模の都市の権力者を指す。灰土地域では当然のことながら市長は魔法使いであり、魔法によって都市を支配する。選挙は行われず、議会の指名や先代の市長の指名によって任命される。絶対的な権力を持ち、魔法の使えない市民は怯えて暮らすしかない

【用語解説】 【忘却の街】
北壁山脈の麓にある小規模の都市国家。灰土地域の北方に位置する。草原が広がる冷涼とした場所にあり、牧畜が盛んである。残念ながら寒すぎる故に作物は育ちづらく、農業には適さない。観光地としては有名ではなく財政は厳しい。資源にも乏しく、目立たない故に忘却とされた











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