「永遠の休息」
そんなに長くない知らない世界の日常


NEW!!
2012/4/15
巨大な重機のてっぺんがパカリと開く
重機は立ちあがった亀のような形をしていて、土台は蜘蛛のようになっている
八本の付属肢が生え地面に固定されていた
錆びた鉄の殻から這い出してきたのは、リエンだ
さっきまでこの重機の中で実験を行っていたのだ


2012/4/15
重機はシートで風雨から守られていたが、組み立ててから4カ月が過ぎところどころ錆びていた
梯子を伝って下りる。重機は10メートルほどあった
重機の下に回り込んで、彼女はエンジンをチェックした
エンジン温はとても低い。相変わらず失敗だ
重機からエンジンを外して台車に乗せ、隣に立ててある掘立小屋へと入っていった


2012/4/15
田舎の街外れ、森の中に建つこの掘立小屋がリエンの全財産だ
中は雑多な機械に埋もれていた。リエンはエンジンを机の隣に運び、椅子に座った
机の上には設計図や計算式が書いてある紙が散らばっていた
ポケットから一切れの紙を出す。実験データを出力した紙だ
それと計算式をにらめっこしている。もうすぐ夜が明けようとしていた



ログ

2012/3/25
その夜は雨が降っていた。森の木に雨が当たりかすかに雨音が聞こえる
狭いパイロットルームには裸電球が吊るされ、濃い陰影を彩っていた
機械の蠢動する音が断続的に聞こえてくる。そしてスイッチをパチパチ操作する音
「AスイッチON、VALUEランプ点灯、GREENランプ点灯よし。REDスイッチOFF、REDランプ消灯、よし」
指抜きグローブに包まれた細い指がせわしなく動く。機械油の匂い。窓の無い狭い空間に彼女はいた


2012/3/25
長い髪は邪魔にならないよう後ろに縛って丸めてある
パイロットルームの雑多なむき出しの機械には不釣り合いの華奢な女性だった
汚れた長袖の作業服は冷たい雨の降る11月には少々物足りないかもしれない
「エンジン点火テスト開始します。液温通常、電圧異常なし。安全装置正常」
誰と会話してるわけでもないが、彼女は声で確認を取りながらボードの紙に数値を記している


2012/3/25
深呼吸をして、彼女はキーを回す。手なれた作業だ
キュルルン、キュルルン。何かの空回りする音。大きな溜息をつく
「今回もだめかぁー、残念です」
結果はいつも通りだった。理論は正しいはずだが、どこかが間違っている
かつて天才と呼ばれた彼女、リエン=トードは今日も天才を捨てた日から続く失敗を積み重ねた


2012/4/4
リエンは将来有望な学生だった。大学の卒業や就職も決まっていた
しかし、ある一通の手紙を受け取った日から、彼女の思考は一変した
既存の全ての法則を否定し、怪しげな研究に没頭するようになったのだ
大学は中退し就職も蹴り、狂ったように実験を繰り返す
いや、実際周りのひとたちは彼女が狂ったと本当に思っていた


2012/4/4
その差出人不明の手紙には、ある設計図が描かれていた
蜘蛛の脚のような鉄骨を地面に向けた機械
その機械の名は「反重力装置」であった
リエンは、その設計図を見て一目で欠陥に気付いた。出力が足りないのだ
天才的な図面だった。確かにこの装置なら反重力は生み出せる。理論上は


2012/4/4
リエンはその欠陥を考えたとき、稲妻のようなひらめきが走ったのを感じた
できる。私ならこの装置を完成に導くことができる
過去の理論は全て消え去り、新たな理念が築き上げられていった!
この機械を動かす出力を生みだすエンジンを!その瞬間!閃いたのだ!
しかし、その閃きを燻らせ、実験は成功しないまますでに8ヶ月が過ぎようとしていた









もどる