お題:影・ロボット・消えた城


 大陸の辺境、乾燥した風の吹く石ころだけの砂漠にある滅びた王国があった。

 その王国は科学技術を発達させ、労働をロボットに委ねて豊かな暮らしを送っていたがそのような暮らしは長くは続かなかった。ある日のこと、雲ひとつない太陽の照りつける日に、そのサーカスの一団はやってきた。

 奇妙なことに、サーカスの団員は黒衣を身に纏った一人の娘しかいなかった。他の団員はみな木偶人形で、娘の意のままに操られていた。国王はその物珍しいサーカスの一団を気にいり、城へと招き寄せた。

 豪華な布や畳まれたテントを引っ提げて、サーカスの列が街を縦断した。先頭に立つのは黒衣の娘。とんがり帽子を被っていて。目には赤いアイシャドウを塗っていた。木偶人形はボロボロで、列が通った後には力尽きた木偶人形がゴミのように捨てられていた。

「娘よ。よくこのような辺境の国へと参った。早速だが、一芸を見せてはくれぬか? 君は人形を操るのが上手なようだが、ただ歩かせるだけの芸ではあるまい」

 国王はそう言って娘に芸を要求した。面白いものが見れたなら、褒美をつかわすといい娘の目の前で宝石箱を開けたりして見せた。だが娘は笑うばかりで、宝石にも指輪にも興味を示さなかった。

「そうですね、この国には機械の人形がたくさんいらっしゃるようです。彼らに盛大な舞を踊らせてみせましょう」

 それを聞くと国王は笑って言った。

「ハハハ、そんなことができるわけない。君の使っている木偶人形とはわけが違うのだよ。機械で制御されていて、仕事以外はできないようになっているんだ。冗談もほどほどにしたまえ」

 しかし娘はコロコロと笑うと。腰に下げた笛を手に取り、軽やかに吹き鳴らし始めた。するとどうだろう、今まさに宮殿の警護についていたロボットたちが踊り出したのだ! 国王は驚いて言った。

「なるほど、どんな魔法だろう。もうよい。褒美をつかわそう」

 しかし娘はコロコロと笑いながら、笛を吹いて踊り始めた。そしてそのまま城の外へと歩きだした。奇妙なことに、ロボットもまた踊りながら彼女のあとに続いて歩きだしたのだ。

「待て! どこへ行くのだ。ロボットを連れていくな。褒美をやる、だからやめてくれ!」

 しかし止めに入ったひとたちはみな木偶人形に邪魔されて娘やロボットに近づけない。娘はそのままロボットの列を率いて街を引き返し始めた。笛の音が街中に響き渡ると、仕事をしていたロボットたちは皆作業を中断し踊りながら列に加わっていった。

 国王は呆然としながらそれを見ているしかできなかった。ロボットの団員を加えたサーカスの列は、街を抜け石ころだらけの荒野へと突き進んでいった。日差しが照りつけ、サーカスの列に大きな影をつける。そのままサーカスの列は影とひとつになり、地平線の陽炎の中に消えていった。

 そしてその国は滅びた。働き手がいなくなり、人々は街を離れた。今ではひとの消えた城の中で、木偶人形だけが踊っている。それも年が過ぎるにつれボロボロになり、ひとつ、またひとつと崩れていく。

 そうして誰もいなくなってしまった。










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