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「来た…湯の気配だ!」
 温泉掘削班12Aは、地下3000キロメートルの坑道内で湯探知計を凝視していた。12Aの面子は、いずれも借金で首が回らなくなり強制労働させられている、20代の男五人だった。いずれも体力だけが取り柄だったので、高温多湿の劣悪な環境でも精一杯働くことができた。
 班長のケンジは、背の高い痩せたひげ面の男だった。彼は湯探知計……アンテナにメーターがついただけの、簡単な機械を操作していた。5人はいずれもタンクトップにカーゴパンツという炭鉱夫のようないでたちだ。ヘルメットにヘッドライトをベルトで縛りつけ、湯探知計の示す壁を凝視している。

「ケンジアニキ! やった、温泉だ……とうとうおれたち、温泉を掘り当てたんだ!」
「マサル、俺たちの借金はみな帳消しだ! これから地上で元の暮らしに戻れるぞ!」
「もう賭け事なんてやんねぇよチクショウ!」

 男たちは歓喜の中互いに抱き合った。汗と埃でべとべとしていたが、構わず喜びを分かち合った。ケンジは一人喜びの輪から抜け出すと、地上に向かってケーブル電話を操作した。

「こちら12A班。班長のケンジだ。温泉の気配を見つけた。至急調査員を送ってくれ。では、通信を終了する」
「ああ、ケンジアニキ。俺たち地上に帰れるんだなぁ。一度で良いから、温泉に入ってみたかったなぁ」
「バカ言え。温泉なんて、特権階級だけのものさ。俺たち貧民には縁のないことさ」

 この世界では、温泉が重要な経済資源として扱われていた。富豪たちは温泉を求めて地下を虫食いのように掘り進めていった。労働力は、もちろん虐げられていた貧民たちだった。労働者たちは、自分たちがこれから先入ることもないであろう温泉を求めて、当てのない掘削に日々を費やしていた。こうして、温泉を掘り当てられるのは運のいい者たちだけだった。
 ほとんどの労働者は、温泉を掘り当てるのを夢見ながら高温多湿の地下世界で生まれ、死んでいった。誰が言ったか分からないが、この環境は「貧者のサウナ」と呼ばれ自虐的に語られていた。

「ケンジアニキ、一度で良いから温泉に入ってみたいぜ……」
「そうだな……」

 ケンジは作業場を見た。壁からは温泉成分が噴出し、雫となって床に溜まっていた。浅い泥の水溜りだ。

「これだって温泉さ。有効成分はそのまんまだ。俺たちは地上に出られるけど、思い出作りにひとっ風呂浴びようぜ!」

 そう言ってケンジは泥の中へ転がり込んだ。男たちは、皆笑って泥の中へと飛び込んだ。生まれて初めて入る温泉はとても浅く泥だらけだったが、とても熱く、じんじんと肌にしみこんでいった。男たちは笑いあって、大の字に寝転んだ。そして皆夢を語った。地上へ出たらどんなことをするのか、どんな嫁をもらうのか……。

 白い服を着た温泉調査員が温泉現場に到着したとき、彼らは作業員が皆泥だらけなのを不思議に思ったが、労働者というのはそういうものだろうと特にどうとは思わなかった。

書き出し.meで公開したものの転載です









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